バイデン米大統領は、5月9日、武器貸与法(レンドリース法)に署名した。これによって米国はウクライナに対する武器貸与の手続きが簡略化される。ただ、米国はすでにウクライナに38億ドル分の大量の兵器を提供している。したがって同法によって軍事援助が劇的に変化することはないだろが、米国が戦争当事者となったことはまちがいない。
そもそも、この武器貸与法は米国がナチス・ドイツに対する戦争に勝利するために、イギリスやソ連などの連合国への軍事援助を行うために1941年3月、米連邦議会で可決されたものだ。当時中立国だった米国内では、戦争当事国に武器を供給することは戦争行為と見なされることから、反対意見が強かった。ルーズベルト大統領は反対の声を押し切って同法を成立させた。その9カ月後、12月7日(日本時間12月8日)、日本軍の真珠湾攻撃によって、米国は独・伊・日の三国に宣戦布告した。それは世界55カ国が参戦し、5000万人の死者を出す大戦争へと発展していった。
バイデンのねらいは、「第二次世界大戦の画期をなした法律を81年ぶりに復活させた」というメッセージを発することだったのだろう。5月9日の対独戦勝記念日を前に、英米の政府筋やメディアは、「プーチンが戦争宣言や総動員令を発するのでは」と騒ぎ立てていたが、結局、何もなかった。一方でバイデンは同日、これ見よがしに武器貸与法に署名して見せたのである。
3月26日、バイデンはワルシャワで、「プーチン氏は権力の座にとどまってはならない」と発言して物議を醸した。これは、「ウクライナの戦争を利用してプーチン政権を打倒し、親米政権に取ってかえる」ということだ。これではプーチンのウクライナ侵攻を非難ができなくなる。バイデンは、翌日の記者会見で「ロシアの体制転換を目指すものではない」とあわてて釈明したが、発言そのものは撤回していない。
米政府はウクライナへの軍事支援のために新たに330億ドル(約4・3兆円)の追加予算を申請している。戦争の長期化によって米国内の軍需関連企業は活況を呈している。ロシアと米国の帝国主義的野望のためにウクライナとロシアの人民犠牲を強いてはならない。(深田京二)