「台湾有事を日本の有事にしてはならない」「沖縄に本当に基地が必要か」。伊東武是(たけよし)さん(元裁判官)の連載第2回。新安保法の集団的自衛権行使のシナリオ、日中不戦こそ平和と歴史の教訓などに言及してもらった。(本誌編集委員会)

 
新安保法と
   自衛隊の出動
 
台湾有事の場合に、新安保法がどう適用されようとしているのか、具体的にざっとみていきます。自衛隊の出動のうち、いわゆる防衛出動と呼ばれるものは二通りあります。自衛隊法76条1項に規定されています。
 
【自衛隊法76条1項】
1 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、(武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号))第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

この一号が自衛権出動、二号が集団的自衛権出動です。いうまでもなくこの二号が7年前にできた新安保法の目玉となったものであり、集団的自衛権の行使を厳格に絞る意味で三つの要件が定められました。この三要件がみたされたときが存立危機事態といわれるものです。
 
三つのシナリオ
 
台湾有事がこの法律の適用により日本の有事となる、すなわち自衛隊の出動となるシナリオとしては、おおまかにみて三つあると思います。
一つ目のシナリオ 台湾有事になったとき、台湾とわが国とが密接な関係にあり、日本に存立危機事態が発生したとして、76条1項二号の集団的自衛権を発動するというもの。台湾を支援するための集団的自衛権の行使です。
二つ目のシナリオ 台湾有事になったとき、これを支援しようとしたアメリカ軍が攻撃を受けた、そのとき、アメリカと日本とが密接な関係があるうえ、米軍への攻撃が日本の存立危機事態を発生させたとして、同じく二号の集団的自衛権を発動するというもの。アメリカを支援するための集団的自衛権の行使です。
三つ目のシナリオ 台湾と中国が紛争になったとき、日本がかねがね台湾に加担すると言ってきたので、攻撃を仕掛けてくるかもしれないと中国が警戒して、「やられる前にやってしまおう」と、台湾に近接する琉球弧の自衛隊新基地などに先制攻撃をかけてくる。そうすると、日本が武力攻撃を受けたことになるので、一号の自衛権出動をするというもの。
 
戦争への流れに
   身を任せない
 
どのシナリオにせよ、これは日中戦争の勃発という大変な事態であります。戦後70数年一切戦争をしなかった日本が、ついに戦争を始めるという事態です。
私たちは、この結論を容認するのでしょうか。戦争への流れに身を任せていいのでしょうか。 
中国の台湾への武力行使については、台湾独立を支持する多くの日本人は中国を非難しています。ならば、中国側が悪いとする多くの日本人は、いざ台湾有事になったとき、日中戦争もやむなしとするのでしょうか。そうではないと思います。
台湾有事の場合の戦争は、沖縄や南西諸島のみなさんには気の毒ですが、戦闘はそちらの方面だけで行なわれ、「本土は大丈夫だから、さほど重大事と考える必要はない」という人もいるそうです。その楽観的な見方は正しいでしょうか。さらには沖縄・南西諸島を本土の盾と考えて犠牲を強いる、あの太平洋戦争と同じ考え方は許されることでしょうか。いや、正しくはないし、許されるはずはありません。 
 
日中不戦は国民的基盤
 
確実に言えることは、中国を悪者とする日本人も決して中国との戦争を望んではいないということです。憲法9条のもとで平和に暮らしたいと願う日本人は、中国との戦争もノーです。私は、多くの日本人の心をそのように理解します。日本を中国との戦争に導こうとする危険な流れには、そうは許さないとする強い国民的基盤があります。

(ブログ「隠居老人の日中不戦祈願」参照/リード、小見出しは本紙)