福島県では2011年の原発事故当時、18歳以下の子ども約38万人に甲状腺の検査をおこない、その結果、約300人が甲状腺がん、あるいはその疑いと診断されました。
 通常、小児甲状腺がんの発症数は、年間100万人のうち1〜2人程度。福島での甲状腺がんの多発は明らかに原発事故の影響です。しかし、国・県そして多くの医師らは因果関係を認めず「検査の打ち切り」を言い始めています。
 これに対して1月27日、これまで固く口を閉ざしてきた6人の甲状腺がん患者ら(事故当時6〜16歳)が、東京電力に対し6億1600万円の損害賠償を求める訴訟を起こしました。原告らは皆、進学や就職という人生の節目に手術や入院を経験し、差別や偏見をおそれ孤立してきました。6人の声を聞いてください。
 Rさん(25歳男性)「手術の難しいタイプと言われました。4回手術を重ね、2回目は死を意識しました。がんがリンパ節に散らばり、手術は6時間半にも及びました。4回目の手術では声帯や嚥下機能を司る反回神経を切除する寸前でした」
 Mさん(24歳女性)「2回目の手術でのどをメスで切り開くと、がんは10カ所以上もリンパ節に転移していました。傷痕は耳の下までの広範囲に。アイソトープ治療で高濃度の放射性ヨウ素を服用しました。そのため、分厚いコンクリートで覆われた隔離室に4日間幽閉されました」
 Kさん(17歳女性)「『取ってしまえば大丈夫』という言葉を信じて、最初の手術は14歳でした。切除したはずの甲状腺のリンパ節に悪性の再発巣が見つかりました。恋愛も結婚も『自分とは関係ないもの』と。女性が一人で生きていけるよう、一生続くかもしれない治療のために、今の目標は公務員になることです」
 Aさん(26歳女性)「ガンの再発で、大学は中退しました。アイソトープ治療では、隔離中、激しい副作用に襲われて何度も嘔吐しましたが、ナースコールを鳴らしても来てくれず一人耐えるしかありませんでした」
 Uさん(27歳男性)「がん化しているだろう結節に針を刺し、細胞を吸い取って調べる病理診断を受けました。麻酔なしに針を喉に突き刺す激痛。医者は2度も失敗し、涙を浮かべる私を見た母親が医者に声を荒げた事が忘れられません」
 Cさん(26歳女性)「ガンの告知を受けた時に、聞いてもいないのに医者は『原発事故とは関係ありません』と言い切りました。手術後、体調もすぐれず、希望の職種だったのに会社を退職せざるをえませんでした。保険適用外の治療もあって金銭的にも大変です。再発リスクもあります」
 原告の若者たちは、「この裁判が他の甲状腺がんの皆さんの力になってほしい」という想いで裁判にうって出ました。
 この裁判は本当に困難な裁判だと思います。直接の訴訟相手は東電ですが、その背後に国や県があります。そして本当に残念な事に命をあずけるはずの医師団も敵に回る事がほとんどです。
 6人の原告たちは氷山の一角です。300人の患者たちの存在を考えれば、この裁判は国をゆるがすものに発展します。6人の若者たちの孤立を許さず、なんとしてもこの裁判を支えていきましょう。  (当間弓子)
※原告らの発言は「通販生活2022夏号」から引用しました。