
自衛隊の出動を阻止する方法はあるのでしょうか。あります。単純なことです。内閣総理大臣に76条の自衛隊出動の命令を出させない、出された場合には国会で承認しないことです。
アメリカに従属し、ひたすら中国批判を続けているわが国の政権は、台湾有事には日本の自衛隊を出動させてしまうのではないかという心配があります。安倍元首相らタカ派勢力は、政府をその方向で動かそうとしています。昨年12月12日、国会で、安倍さんの「弟子」たる政調会長の高市早苗議員が岸田総理に、先に挙げた安倍元首相の「台湾有事は日本有事」と同じ考えかどうかを問いただす質問をしました。その際、岸田総理は「台湾は日本の大切な友人だ」という答弁にとどめ、台湾防衛への関与の明言は避けました。
国会の機能を活かす
台湾有事がもっと切実になったとき、特にアメリカからの強い要請がきたとき、内閣総理大臣は、台湾防衛のために積極的になる可能性はあります。そのとき、総理大臣に自衛隊出動命令を出させないためには、国会が戦争反対の国民世論を背景に議論を重ねて、容易なことでは自衛隊出動命令の承認をしないという態度を示す必要があります。それでも出されたときは、国会は承認を拒否しなければなりません。
76条要件は厳しい
自衛隊法76条の内閣総理大臣による自衛隊の出動命令には「国会の承認」が必要との規定がきちんと置かれています。国会の平和勢力は、一定の事態を想定したうえ、憲法9条の戦争放棄の例外として定めた76条1項一号、あるいは二号の自衛隊出動の要件があるかどうか、そうした法的議論を提起することができます。このような重大な事柄について、まだ台湾有事が現実になっていないとの理由で、政権与党が国会の議論から逃げることは許されません。
集団的自衛権行使を認めた自衛隊法76条1項二号には非常に厳格な要件が置かれています。安易にこれを行使してはいけないという趣旨からできた三つの要件です。この点に関し、評論家・佐藤優さんの発言を紹介しましょう。
7年前の国会議論の直前、自民党が公明党との間で、法案作りに向け集団的自衛権行使のための要件を調整していた際、公明党が三つの要件を提案して自民党に飲ませた。これが今の自衛隊法76条1項二号の文言となりました。
佐藤優氏は当時ある座談会で、この厳格な要件を挿入させた公明党を高く評価し、「これだけ縛りをかければ日本が集団的自衛権を行使することは、まずできなくなった。憲法9条が守られた。公明党の功績は大きい」、そういう趣旨のことを述べていました。私はよく覚えています。
二号の要件の厳しさは半端ではありません。
出動命令不承認の理由
まず、先のシナリオ三つのうち、一つ目の台湾を支援するために集団的自衛権を行使するという場合です。
ここで一番大きな論点は、台湾は「国」ではないという点です。「一つの中国」政策をとっている日本政府にとって、「台湾」は中国の一地方とはいえても、独立の国ではないことは確かです。そうすると自衛隊法76条1項二号の「密接な関係のある他国」にはあたらないのです。この点は台湾支援のために集団的自衛権を発動しようとするときに、決定的ともいうべき難点です。
次に、シナリオ二つ目のアメリカを支援するための集団的自衛権行使の場面。台湾有事の場合、この形で日本が参戦する場合が多いと考えられます。この場合、「他国に対する武力攻撃が発生」という要件は、アメリカ軍が攻撃されたのですから満たすといえます。
一番問題とすべきは、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」の要件があるかどうかです。この存続危機の事態が発生しているといえるでしょうか。(ブログ「隠居老人の日中不戦祈願」参照/リード、小見出しは本紙)