万博予定地の夢洲(大阪市此花区)

 ここまで、グローバル化と「改革」という問題を見てきたことに踏まえて、維新の経済政策を検討したい。
 
「グローバル経済と
 いかにつながるか」
 
 〔A〕「福祉、医療、教育、安心、安全等に係る住民サービスの向上こそが地方政府の存在理由であるが、そのためには、圏域の競争力の強化と成長が不可欠」(維新・綱領)
 「増大する社会保障を支えるためにも、成長の果実がなければ社会保障を支えていけない」(松井一郎・大阪市長 19年4月)
 〔B〕「万博やIRで注目したいのは、目先の経済効果よりも大阪の経済を国際経済と直結させる契機としての意義である。大都市大阪の命運はグローバル経済といかにつながるか、にかかっている。G20、万博、IRの3つをホップ・ステップ・ジャンプとして、そして関西空港をテコに海外の経済成長と大阪のまちをつないでいく。特に海外からの民間投資の呼び込みが重要となる。海外の先端企業が大阪に投資し、一緒にビジネスをする流れをつくっていく必要がある。
 府がリーダーシップで、府市連携、市町村間の水平連携が進めることが、経済の活性化の恩恵を広く住民生活に行き渡らせていく(トリクルダウン)うえでも大切になってくる」(上山信一・大阪府市特別顧問 19年1月11日)
 まず、〔B〕から。〔B〕は「橋下改革から10年の成果」と題する中間総括の小論で、引用はその要旨抜粋だが、小論の大半が、ビジネス環境整備としての「改革」という話で、最後に、「住民生活」というタームがトリクルダウンの流れで触れられるだけ。
 筆者の上山は、維新の政策を指南・立案している経営コンサルタント。したがって、この文章が維新の本音だ。だから、〔A〕で見ると、「住民サービスの向上のために」と、あたかも住民サービスに目的があって、だけどそのために「成長が必要だから」という言い回しになっているが、「住民サービスの向上」は選挙向けの方便でしかない。目的も手段もビジネスにあるのだ。
 しかも、そのビジネスの話の柱が、〔B〕を見れば、「大阪の命運はグローバル経済といかにつながるか」「海外からの民間投資の呼び込み」。つまり、グローバル資本を呼び込むためのビジネス環境の整備こそ、行政の仕事だと言い切っている。
 
「住民生活」第一から「グローバル資本」第一へ
 
 こうしてみると維新の政策のロジックは次のように整理できる。
 (1)身を切る改革で、住民サービスを徹底的に削減し、
 (2) (1)でねん出された財源を、グローバル資本を呼び込むビジネス環境整備に投入する。
 (3) (2)でグローバル資本が収益を上げ、それが税収になれば、住民サービスに回せる。
 (4) この政策をトップダウンで推進できるように制度改革を進める。
 つまり、維新の言い回しだと、「(3)の住民サービスが目的だけど、(1)→(2)→(3)だから、(1)や(4)を頼むよ」と言っているように聞こえる。「それしかないなら、仕方がないなあ」となる。
 「それしかない」というのも間違いだし、(1)→(2)→(3)というのは、露骨なトリクルダウン仮説であってフィクションだ。
 だが、ここで一番の問題は、上で〔B〕について見たように、そもそも、維新の発想に(3)の住民サービスなど眼中になく、(2)のグローバル資本を呼び込むビジネス環境整備が目的であって、そのための(1)の住民サービス削減や(4)の制度改革だという点だ。
 つまり、維新が言う「改革」とは、従来の地方行政の基本的な考え方として、住民サービスを第一の目的としてきたあり方から、「グローバル経済とつながる」「海外から民間投資を呼び込み」を第一とする行政への大転換なのだ。30年来の「改革」の基本思想は「企業は株主に報いる。雇用は考えない」(宮内オリックス社長 94年)という新自由主義思想だと指摘したが、その行政版こそ、維新の「改革」なのだ。
 
社会と経済を破壊
 
 「グローバル経済とつながる」「海外から民間投資を呼び込む」ことの何が問題か。
 グローバル資本は、株主利益の最大化を要求する海外投資家だ。それは、収益だけを目当てに、ボーダレスに移動し、短期売買を繰り返している。だから、地域や社会の経済の発展や雇用の拡大などに全く関心がない。社会にとって必要な事業でも、グローバル資本にとって不採算や高コストとなれば事業売却、工場閉鎖。短期間に現金化できるものをしゃぶりつくし、後は焼け野原。
 そういうグローバル資本を呼び込むというのだ。自治体の提供したインフラにフリーライド(タダ乗り)し、収益はタックスヘイブンに送金してしまう。税金も払わない。また、莫大な助成金も要求する。誘致の際、優遇を約束しているからだ。(IRカジノを巡って問題の一端が見え始めている)。そういう便宜を受けながら、収益が出ないと見たらすぐに撤収する。
 だから、グローバル資本のために税金を投入しても、住民にサービスは増えないどころか、しゃぶり尽くされて社会と経済を破壊されるだけだ。
 民間企業一般が悪いと言っているのではない。社会的便益に貢献している民間企業もある。問題は、グローバル資本(投資ファンド、機関投資家など)。いまや資本主義の性格が転換し、グローバル資本が主流になっている。
 「グローバル経済とつながる」「海外から民間投資を呼び込む」という行政とは、行政がグローバル資本の下請けと化し、社会と経済の破壊を担うということなのだ。
 
「都構想」「府市一体化」
 
 維新が推進する万博、IRカジノ、医療インバウンド、水道民営化、「都構想」など、それぞれの問題点もあるが、同時に「行政がグローバル資本の下請けと化し、大阪の社会と経済を破壊する」という、それらに一貫する大問題を焦点化する必要がある。
 また、「都構想」「府市一体化」は、財源や権限の大部分が大阪府に行くが、大阪府が大阪市を乗っ取るわけではない。大阪市民が損をして大阪府民が得をするという話では全くない。住民のための財源を奪い取って、グローバル資本に差し出すのが問題なのだ。
維新「成長戦略」とは、グローバル資本頼み、トリクルダウン頼みの虚構であり、「大阪の成長を止めるな」どころか、大阪経済を最後的な破壊に導く焼け野原の道だ。焼け野原か、グローバル化と一線を画して大阪の社会と経済の再生か—こういう選択が問われている。