前回見たように、維新は、「グローバル経済とつながる」「グローバル化に投資する」ことが大阪経済の再生の道だという。
 たしかに、大阪経済は、長期にわたって疲弊・衰退している。日本の主要都市の「県内GDP(実質)の推移」や「一人当たりの雇用者報酬の推移」で、大阪は下位にあり、地域経済を担う中小企業を中心に事業所数も雇用者数も大きく減少してきた。そういう大阪経済の衰退を背景に橋下・維新が登場した。しかし、それ以降も、(インバウンドなどの外的で一時的な要因を除けば)改善の兆しはない。
 問題は、その疲弊・衰退の原因である。その原因をめぐって議論する必要がある。「グローバル経済とつながる」とは、戦後の開発の失敗を繰り返すものでしかない。その失敗の総括を曖昧にしていることが維新の跋扈(ばっこ)を許しているのだ。
 

堺泉北コンビナート(堺市公式インスタグラムより)

 外来型開発とグローバル化で産業空洞化
 
 もともと大阪経済は、製造業を中心とし、一定の自律性をもち、中小企業のウエイトが高い、「ものづくりの街」であった。
◇コンビナートの失敗
 1950年代末から70年代にかけて、堺・泉北にコンビナートが建設された。大阪府・大阪経済界は「東京に比べて大阪は遅れている。原因は輸出型重化学工業がないからだ」として、重化学工業の誘致を進めた。
 しかし、コンビナートは、海外を含む広域の市場を対象としており、誘致した重化学工業と従来の工業との産業連関が生まれなかった。雇用や税収の寄与も小さい。もたらされたのは公害と自然破壊であった。
◇産業空洞化
 80年代後半以降、海外直接投資とアジアシフトが進んだ。経済のグローバル化と日米貿易摩擦への対応として、政府が政策的に推進した。大阪では、電機を中心に、他地域よりも積極的に海外進出を進めた。そのことによって、大阪の「産業の空洞化」が一気に進む。加えて、貿易摩擦対策として政府が輸入政策を奨励したために、大阪の主要産業であった繊維関係の製造や卸売が大打撃を受けた。
 大阪での事業所数・従業員数の減少は、全国最大規模の落ち込みを記録した。
◇「支店都市」化
 グローバル化は、情報や金融などが集積する東京へ、各企業の本社機能の集中を促進した。大阪は「支店都市」に格落ちし、所得は本社のある東京に吸い上げられる形になった。さらに、00年代初頭の金融ビックバンで、三和銀行が再編で消滅、住友銀行が合併で本社を失ったことも追い打ちとなった。
◇構造改革
 大阪に限った問題ではないが、構造改革で消費購買力が失われ、経済が縮小、失業率が上昇し、ワーキングプアが増加した。
◇関空の失敗
 グローバル化と共に大阪の衰退にとって決定的だったのは、大阪府がやみくもに推進した大型プロジェクトである。その典型が、関西国際空港建設だ。
 総額約1兆円を投じた一大プロジェクトだったが、その建設関連は東京系のゼネコンが受注、航空関係システムは外資系が受注といった具合で、関西には、さほど金も仕事も回らなかった。大阪に残ったのは財政難だけだった。
 
失敗の教訓
 
 以上からどういう教訓を引き出すか。
◇「輸出主導・大企業主導」の錯覚
 「輸出主導・大企業主導で経済成長を」という発想が大間違い。「高度成長は大企業を中心に重化学工業化と輸出で実現」は錯覚だ。労働者数の増加と春闘形式による賃金上昇で、内需が大きく拡大したことが高度成長を主導したのだ。大企業による輸出主導で経済成長をしたわけではない。
◇「企業誘致で活性化」の幻想
 道路・港湾・空港などのインフラを公共事業で整備し、そこに優遇措置をつけて企業を誘致する。それが典型的な企業誘致型の開発のやり方だが、それは、地域経済の持続的発展につながらない。
 インフラ整備は、一過性の投資で、そこから再投資の循環につながるわけではない。しかも、大手ゼネコンが受注すれば、収益は本社のある東京に移転してしまう。
 誘致企業は、一定の労働力は地元から調達するものの、多国籍企業であるほど、原料・部品は地元より「企業内世界分業」のネットワークから調達するので、地域経済への波及は限定的だ。収益は、東京など域外の本社に移転する。
◇「先端産業を誘致すれば」の神話
 「先端産業」の多くがグローバル企業で、本社や研究開発の機能はグローバル都市に置いている。他方、生産ラインは、大阪より土地や労働力が安く高速道路網が整備された国や地域に置かれる。そして、「企業内世界分業」のネットワークの一部を大阪で担当するだけなので、大阪経済には連関しないし、技術移転もない。収益はもちろんグローバル本社に吸い取られる。そして、優遇措置を受け、フリーライドしたあげく、急に撤退する。
 
地域内再投資と地域内経済循環が核心
 
 一般に、ある地域の経済や社会が持続的に存続・発展するということは、そこで、繰り返し再投資が行われ、地域内での雇用や所得、生活が再生産されている、ということを意味している。これを「地域内再投資」という。そのポイントは、毎年、その地域でまとまった投資が行われ、そのお金が最初に投資した個人・企業・団体に戻ってくる=還流することだ。これを「地域内経済循環」という。
 だから、逆に、地域内再投資力が弱まり、地域内経済循環が阻害されれば、地域経済も衰退する。端的に言えば、大企業などを地域経済の外から誘致するという外来型開発とグローバル化こそが、地域内再投資力を弱め、地域内循環を壊してきた元凶なのだ。外から来た大企業が、利益を地域経済の外に持ち出してしまい、納税も再投資も地域経済内で行わないからだ。実際、本社や研究開発の機能が東京に集中する中で、大阪や京都などの関西圏では、地域内再投資力の主体である民間事業所数が大きく減少してきた。
 ということは—
 「世界で一番企業が活躍しやすい国」(安倍首相・当時 13年1月)
 「海外の先端企業が大阪に投資し、ビジネスの流れを」(上山信一 大阪府市顧問 19年1月)
—などの勢いのある言葉とは裏腹に、これは、地域内再投資力や地域内経済循環を破壊する失敗を繰り返す道だ。では、それに対抗する大阪再生のビジョンは? そのカギも、地域内再投資と地域内経済循環にある。

参照文献:岡田知弘『地域づくりの経済学入門』、宮本憲一「大阪の都市政策を考える」『2015年 大阪の都市政策を問う』