平和統一への役割
中国の要人は「台湾のことは身内のことなので、よその国が余計なことを言わないでくれ」と言います。そういう面もたしかにあります。隣の家の夫婦げんかに口をだしたり、一方に加勢したりするのはやりすぎ。
日本人もアメリカ人もここはじっと我慢し、その代わりに、中国と台湾とのあいだの平和的統一、平和的共存に調停的役割を果たすことに全力を尽くすことで、君子としての義務を果たしたことになるのではないでしょうか。一方に味方することは避け、「君子危うきに近寄らず」の態度は、世界の平和と幸福のために立派な責任ある態度と言えるでしょう。
日本有事のシナリオ
台湾有事において、日本が自衛隊法76条により自衛隊を出動させるシナリオとしては、以上の他にもいろいろ考えられます。
7年前の新安保法にもとづき、武器使用権限などが拡張された米艦護衛とか、後方支援の任務に出て攻撃を受け、それにより一号の自衛権発動をする、というケースもあり得ます。そうした任務もやはり「危うきに近寄って、自ら招いた行為」なのではないでしょうか。
これらの理由を挙げて、76条1項一号の自衛隊の出動を承認しないとする議論も十分に可能だと思います。
中国の核心的利益
ここまで、台湾有事に、日本が巻き込まれないために考えるべきことを述べてきました。みなさんの中には、現在の時点では将来あるかどうかわからない台湾有事を想定した議論よりも、今、台湾有事を起こさせないために国際世論を高めて中国に圧力を加えたり、軍事的抑止力を高めて中国に武力行使をためらわせるという、現在の状況を考えた議論こそが大事ではないかと思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、今、確実に言えることは、中国は台湾が独立しようとすれば、どんな犠牲を払っても、極端に言えば米国から核兵器で攻撃されようとも台湾の独立を阻止する、と言っていることです。「台湾は中国の核心的利益」と言っているのは、そういう意味です。
それを「けしからん」と非難することは簡単ですが、どう非難されても中国のその方針は70数年前、1949年の建国以来一貫し、米中国交正常化交渉においても主張し続けて今日に至っているものであり、これが揺らぐことはないのです。中国と台湾との関係が国共内戦の歴史から生まれてきている、その経緯を考えると、「一つの中国」に固執する中国の態度も理解困難とはいえません。
有事に
至らせないために
そういう前提で考えれば、中国に「武力を行使するな」という圧力は台湾の独立を断念させない限りほとんど無駄なことといわなければなりません。
そうだとすると、台湾有事を避ける方法は、台湾に独立を断念させるか、あるいは台湾と中国の双方に、独立・統一の問題を話し合ってほしいと要望するしかありません。抑止力によっては台湾有事を避けることはできないのです。
柳澤協二さんらによる大変説得力のある政策提言(「台湾問題に関する提言—戦争という愚かな選択をしないために—」)があります。台湾をめぐり難しい問題があるにもかかわらず、これまでかろうじて平和が保たれてきたのはアメリカと中国が「一国二制度」を守ってきたこと、すなわち「一つの中国」の認識と「台湾独立の不支持」の方針をとってきたからであり、今後の平和のためにもこれを守っていく必要があると明確に述べています。平和的解決の条件が整うまでは、台湾の独立を諦めるしかない、と現実を冷徹に見ています。私もそのとおりだと思います。
(ブログ「隠居老人の日中不戦祈願」参照/見出し、小見出しは本紙)