6月の高作正博さん(関西大学・憲法学)の講演会で、イワン・クラステフ、スティーヴン・ホームズ共著の『模倣の罠・自由主義の没落』(中央公論新社刊)という書籍の紹介があった。クラステフはブルガリア出身で1965年生まれ。ソ連の崩壊=冷戦の終結を20代で経験した世代。
この本は、「模倣」というキーワードを軸として、ソ連崩壊後の30年を概観するという刺激的な内容になっている。
第一章は東ヨーロッパの30年を概観している。東ヨーロッパでは、こぞって西ヨーロッパの自由主義を「模倣」し、自由で豊かな社会が到来するとの希望をもっていたという。しかし現実の東ヨーロッパは、どんなに頑張って西欧を模倣しても認められず、侮蔑され、ブリュッセルにいるEU官僚たちの指示に従うという選択肢しかなくなっていることに気づいていく。ハンガリー等では、高等教育を受けた自国の若者は、その地にとどまることなく、西ヨーロッパに移住し続けているという。人口は減少し、将来を悲観する気持ちが横溢し、それが急速に東ヨーロッパでポピュリズムの政治を拡大しているという。
「鏡に映す」
第二章はロシアの30年を概観している。ロシアでも、プーチンは当初は東ヨーロッパと同じように、英米・西欧の「模倣」を一生懸命に進めていたという。ところが英米・西欧は、どんなにロシアが頑張っても、「模倣する者たち」を認めることはないということに気づいたのだった。2010年代になると、アメリカが主導する世界秩序を「鏡に映していく」という戦略をとりはじめたという。アメリカが世界の覇権国であるが故に、イラクやアフガニスタンでどんなに非道なことをしても、国際世論は決して全面的な非難もしないし制裁もおこなわない現実。アメリカが許されていることが、なぜ他国では許されないのか。プーチンのロシアは、このアメリカの「模倣」を、この10年間継続的に取り組んでいると。クラステフは、それをロシアによる「報復としての模倣」と呼んでいる。現在のウクライナでの戦争もその流れにある。 (秋田 勝)