7月18日、高槻市で、「老朽原発うごかすな!」講演会がありました。主な講師は弁護士の井戸謙一さん。「美浜3号機運転差止裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」について語りました。後者について報告します。
      (当間弓子)
 
 この裁判は今年1月27日提訴。被告は東京電力ホールディングス株式会社。原告は6人(原発事故当時6〜16歳、女性4人・男性2人)。弁護団は17人。請求額は8800万円から1億1000万円。訴訟相手を東電だけに絞ったのは迅速な判決を求めてのやむなき決断でした。
 
将来が考えられない
 
 原告たちは全員手術を経験し、2人が甲状腺片葉切除。4人が甲状腺の全摘出で、全摘出の内、1人は手術4回、1人は肺転移し、1人も再手術の可能性を宣告されています。
 4人はアイソトープ治療を受け、または近く受ける予定です。アイソトープ治療とは、高濃度の放射性ヨウ素のカプセルを飲んで、がん細胞を内部被ばくさせる過酷な治療です。
 原告たちは生涯にわたって甲状腺ホルモン製剤の服用が必要で、その調整が難しく体調不良をきたしています。肩こり、疲れやすさ、足のむくみ、手足のしびれ、肌荒れ、風邪をひきやすい、肺炎・ぜんそく、気持ちが落ちこむなど。
 結婚や出産に対する不安、経済的には、就職できるのか、医療保険に加入できるのか、住宅ローンを組めるのかと、将来のことを考えられない状態におかれています。友達が青春を謳歌し、夢をかなえていく姿を目の当たりにしながら、原告たちはすべてを耐えて犠牲にしてきました。
 
事故と因果関係明らか
 
 5月26日に第1回口頭弁論がありました。歩道からあふれんばかりの多くの人びとが集まり、27席の一般傍聴券に226人の行列が並びました。法廷では、原告代理人が45分にわたって訴状の内容を説明しました。
 「小児甲状腺がんは年間100万人に1〜2人しか発症しない極めてまれなガンです。ところが福島原発事故後38万人の子どもから、少なくとも約300人という患者が発症しています。原告たちの発症は福島原発事故による被ばくが原因であるとしか考えられません。被告がこの因果関係を争うなら、被ばく以外の原因であることを証明してください」。
 東電の答弁書は、乏しいデータをもとに「福島の子どもたちはわずかな被ばくしかしておらず、原告らに被ばくを原因とする甲状腺がんが発症するはずがない」と真っ向から反論しました。
 
23歳まで生きられない
 
 この後、原告の一人である「原告2さん」(20代女性)が16分間、4000字の言葉を紡いで意見陳述をしました。
 「中学3年の時に福島原発事故に遭遇しました。最初は県民健康調査で異常が見つかり、精密検査を受けるにいたりました。血液検査やエコー、そして穿刺吸引細胞診をすることになりました。首に長い針を刺して細胞を取るのですが、失敗を重ね、ようやく3回目で成功しました。とても恐怖でした。その結果、甲状腺がんが発見され、医師は「手術しなければ23歳までしか生きられない」と言いました。とてもショックで、今も忘れられません。これで治るならと手術を受けましたが、甲状腺の片葉切除をしたのに再発し、さらに手術し全摘となりました。麻酔が合わず夜中に吐くなど苦しい手術で、手術の後は3カ月声が出にくくなっていました。
 再発が見つかった時、せっかく入った大学を退学せざるをえませんでした。肺にもリンパ節にも転移し、傷痕は大きく、「自殺未遂でもしたのか」と心ない言葉を言われたこともありました。
 肺転移の病巣治療のためアイソトープ治療も受けました。1回目と2回目は外来でしましたが、がんは消えませんでした。3回目はもっと大量の放射性ヨウ素を服用するために入院となりました。
 病室は長い廊下を通り何回も扉をくぐり、放射線マークのある危険区域にありました。夜中にものすごい吐き気におそわれ苦しみましたが、ナースコールを押しても来てもらえず、吐き気止めが処方されるだけでした。こうして3日間過ごしました。そんなつらい思いをしたのに治療はうまくいきませんでした。
 通院のたび、腫瘍マーカーの数値が上がっています。体調も悪く、家族にもどれだけ心配や迷惑をかけてきたかと思うと、とても申し訳なく思います。もとの身体に戻りたい。そうどんなに願っても、もう戻ることはありません。せめて甲状腺がん患者に対する補償が実現することを願います」。
 原告2さんは時折涙ぐみながら、しかし最後までしっかりと読み上げました。被害者の体験に基づく語りは圧倒的な力で法廷を支配し、静まり返った法廷のあちこちからおえつの声が聞こえ、身を乗り出して聞いていた裁判官の目も赤くなっていました。
 
萎縮するメディア
 
 終了後の記者会見ではたくさんの記者がつめかけましたが、翌日の新聞ではほとんど報道されませんでした。事前にTBSの「報道特集」がこの裁判の特集を放映したことに対して、「被ばくによって甲状腺がんが発症したというのはデマである」との激しいバッシングにあったため、大手メディアが萎縮してしまったのです。
 この日の原告2さんの意見陳述は、福島原発事故によって健康被害を受けた住民が初めて声をあげた歴史的な出来事です。これを報道できないようではメディアの存在意義はありません。
 小児甲状腺がんはチェルノブイリ原発事故後に急増し、放射線との因果関係が国際的に認められています。原発問題での国、県、東電のあり方は、「人の住めないところに人を帰し、311を無きものにする」ものです。「311子ども甲状腺がん裁判」においても被告の東電はこのような姿勢を貫き、原発事故と甲状腺がんはまったく関係ないと、マスコミも動員し強弁しています。
東電は、「多発の原因は過剰診断であり、放置すれば小さくなるものを不要な検査で発見している。手術も必要ないものであり、検査もやめてしまうべき」と暴言を吐いています。断じてマスコミの沈黙を許さず、この裁判を広く世間に訴え、立ち上がった被害者の若者たちをなんとしても守り抜き、支援を強め、勝利を勝ちとりましょう!