
引き続き、伊藤公雄さんの「男性学入門」から。
独居高齢者の実状 兵庫県が行った独居高齢者の意識調査がある。女性高齢者の悩みのトップは経済問題。「女性の貧困」は格差社会のなかでますます深刻化している。
一方、男性の悩みはなんと「孤独」だ。日本男性の生活スタイルがはらむ問題だ。会社人間としてほぼ一生を過ごした男性にとって、「仕事」「肩書き」がなくなった余生の虚無感は大きい。
さらに怖いデータ。60歳以上の男女で、配偶者に先立たれた場合の平均余命だ。妻に先立たれた男性の平均余命はなんと3年未満。一方、女性は約15年だ。平均寿命は女性の方が長いし、妻より夫が年上が一般的なため、男女に差があってもおかしくないが、平均余命に12年の差はあまりに大きい。米のデータでは、離婚男性の死亡率は、同じ条件の女性の3倍に上る。
「男らしさ」が男性の老後に悲惨さをもたらす。今こそ男性もめざめて、精神的自立をかちとるべきでは。「妻のパンツを外で干せますか」という質問に、進んだ考えを持つ男性のなかでも「メンツがある」と拒否する人が多い。そうした「男の沽券」とやらで身を滅ぼしていくのである。
暴力と犯罪 犯罪の発生率は女性に比して男性の方がはるかに高い。米の場合、刑務所の入所者数の男女比は25対1である。幼女や女性を対象とした強制わいせつ事件は、女たちに追いつめられているという不安と、女は支配の対象だとする旧いイデオロギーとの狭間で葛藤している男性が、そのジレンマを女性への性的攻撃によって解消しようとして起こすという。それは病理的な心理のメカニズムが社会現象として露出したものなのだ。
優越・所有・権力
社会的犯罪として表に出ない男性の女性に対する暴力は枚挙に暇がない。「男らしさ」は次の三つの志向性として現れる。
「男たるもの、知的にも精神的にも肉体的にも女に負けてはならない」という「優越志向」。それでも負けた場合には追いつめられて暴力で挽回しようとする男性がいる。
男性の「所有志向」は、専業主婦の妻を家庭の外に出したがらないという形で現れがちだ。共働きの妻なのに、門限を設けている夫がいる。9時が門限で、遅れると殴ることもある。ところが夫のほうは午前様でも妻から殴られることはけっしてない。理不尽に殴られた妻は憎悪をつのらせ、将来の復讐を誓う。妻が夫の定年後に離婚を申し出るのは珍しくない。
「権力志向」は、妻や子どもに威張り散らして「満足」している姿に現れる。DV(ドメスティック・バイオレンス)、パワハラ、セクハラはまさにこの三つの志向性を合体したかたちで現れるのだろう。