
哲学者ニーチェは次の言葉を遺した。「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである」。事物には、さまざまな見方があるという事だ。特に、歴史的な事件は相対的な解釈が可能である▼安倍晋三・元首相が山上徹也容疑者に銃撃され殺された時に、頭をよぎった。日本初代総理大臣・伊藤博文のことだ。1909年10月26日、伊藤がハルビン駅に降り立った時、韓国人・安重根によって撃ち殺された。日本では伊藤は偉人、安はテロリスト。韓国では伊藤は侵略者、安は愛国の義士である▼伊藤はまた、若い頃イギリス公使館焼き打ちや塙忠宝、加藤甲次郎を殺したとされるテロリストである。戦後、伊藤は千円札の肖像になった。安は韓国で200ウォン切手の肖像になっている。伊藤は国葬にされ、安は絞首刑になった▼翻って今回の安倍「国葬」。山上徹也の悲しみ、苦しみを踏みつぶしてしまった。歴史は権力者に都合よくつくられる。見本のような「国葬」だった。(鹿)