「憲法9条を変えてはならない」と訴える伊東達也さん=10月23日、兵庫県芦屋市

福島第1原発の過酷事故から11年7カ月。福島いわき市民訴訟原告団長、伊東達也さんの話を聞いた。伊東さんは、「40年で廃炉ありえない」「許されない汚染水の海洋投棄」「福島の原状回復、復興は」「原発と核兵器保有」などを話した。(10月23日、芦屋市内。取材/竹田)

核燃料デブリの取り出し、最初の計画は11年12月、「20~30年後に取り出し完了」とされた。この年数は、以後二度と出されていない。今もまったく見通しはない。仮に取り出せたとして、どうするのか。置く場所はない。スリーマイル、チェルノブイリ、福島も「廃炉とはどういう状態か」さえ、決まっていない。
凍土壁では、地下水の流入が止められない。トリチウム汚染水は130万トン、増え続けている。セメント・固化材を使った広域遮水壁や、数100万トンの保管実績がある石油備蓄タンク方式を考えるべき。もちろん、海洋投棄は安全性、風評被害、生態系への影響などを考えると大問題である。

福島の復興とは

8月31日から双葉町の一部が帰還できることになり、「誰も住んでいない自治体」は11年半後、なくなった。しかし戻る人は少ない。双葉町を含む12市町村、14万7428人が強制避難とされた。復興庁は「避難者」数は3万人弱としているが、避難先で住宅を確保した人を除いている。「ふるさと」に戻っていない人は8万人余。「自主避難地域」を含めればもっと多い。正確な人数はわからない。福島県の震災関連死は、直接死(1605人)を大きく上回る2333人で、自殺が119人だ。自然の恵みも大打撃を受けた。農業の産出額はやっと事故前の90%。林業は83%。沿岸漁業は20%に過ぎない。

原発依存政策への回帰

岸田政権は、①原発7基の再稼働、②運転期間の延長、③次世代型など新増設を進める方針を打ち出した。国土の喪失、81兆円の損害を出し、11年後も被害が続く福島原発事故を「もう忘れよう」とする。再び大事故の危険性が高まる。
「ウクライナ侵攻の影響により、天然ガス等の価格高騰」「電気料金が企業や家計を圧迫」「原発は温暖化の歯止め」「夏冬の電力使用ピークに急迫状態が起こる」などをあげ、原発の必要を言う。ピーク時の急場は数時間、数日であり誇大な宣伝だ。原発は年に1回の定期点検で休止する。それに見合う火力発電所が必要となり、温暖化対策にならない。再生可能エネルギーへの政策転換も遅らせる。

「核抑止論」は破綻

ロシアがウクライナの原発を攻撃し、占領した。戦争になれば、原発が狙われることが現実になった。プーチン大統領は、核兵器使用も辞さないと威嚇する。「核兵器が戦争を止める」という核抑止論は破綻している。核保有は使用が前提で、核共有も同じだ。ウクライナの事態は、「憲法9条を変えてはならない」と教えている。「原発なくせ」「核兵器をなくせ」「憲法9条を守れ」の三つは切り離せない。