
ウトロの放火事件に、「これは大変な社会になるかも」と不安に駆られたとき、知人がフィールドワークを計画してくれた。参加して本当によかった。(11月20日)
副館長のキムさんは、ウトロ平和祈念館の建設や市営住宅の建設に到達したことを、「運命のいたずら」と話した。地区の住民たちの声は思っていた以上に複雑で深い。
「立ち退き問題があってよかった。いろんな人たちが支えてくれたおかげで、日本人を恨んだまま死なずにすんだ」「会館など作るから、差別の原因に」「いや、だからこそ歴史をちゃんと明らかにすることが大切なんだ」こうした声が大切にされ、ウトロ祈念館に結実している。
キムさんは放火の犯人と面会して、じかに「放火の理由」を聞いてみたという。彼は「『在日特権』を世に問いたい」「でも問う手段がなく、愛知民団の放火を行った」「ウトロのことをネットで知り、その10日後に放火した。ネットのヘイトスピーチに影響受けた」と話した。
そこでキムさんは「私は何十年も在日として生きてきたが、特権を受けてきた記憶がないので、具体的にその『特権』とは何か言ってもらえませんか?」と聞いたが、彼は答えられなかった。最後に「(本当のところ)何をしたかったのか」と問うと、「自分でもわからない」と答えた。
鬱屈した彼の心に、ヘイトスピーチが劣情の火をつけ差別襲撃に走らせた。しかし「心は空っぽ」だった。その事実に、衝撃を受けた。
あるオモニが移転先の市営住宅を見せてほしいと言った。「住み慣れた家がいい」と新しい住宅に入らなかったが、「(運動の)結果がどうなったか見たい」ということだった。こうしたさまざまな言葉は、ウトロに足を運ばないと聞くことはできない。
4月オープンから半年で8千人近い人たちが来館した。日本各地から、韓国をはじめとして世界各地から、特に若い人たちが在日朝鮮人の歴史・人権に関心を持って訪れている。副館長のキムさんの「歴史は悲しい教訓ではなく、貴重な財産である」という。「それが在日の人びとを、韓国や日本の学生たちを元気づけている」という言葉にウトロと私たちの今を教えられた。 (石田)