柳澤協二さん

 「ウクライナでの戦争、ロシアによる侵攻、台湾有事…。だから反撃能力、抑止力、ミサイル保有、防衛費2%だと言う。そうなのか」。イラク戦争時の防衛運用局長、官房副長官補として安全保障を担当した柳澤協二さんが話した(憲法集会/総がかり行動兵庫主催、11月30日、神戸市内)。
 「戦争不安」の時代、柳澤さんは「戦争回避という理念と言葉がキーワード」と、戦争を起こさない、やめさせるため、次のような視点を示した。
 
戦争にしない努力
 
 米ソ関係の一応の安定、敵をつくらない外交、抑制的防衛力などにより70年以上、直接の戦争がなかった日本。いま、それらの条件が失われているのに「日米安保という成功体験」に依存し続け、アメリカと世界の変化、戦争に巻き込まれない、戦争をしないためにどうするかという自覚的発想がない。そういう政治、政治家がいない。
 戦争とは国家意志の実現。そういう和解なき対立の時代なら対立を戦争にしない、対立はあるが戦争にしないこと。ウクライナでは米国が派兵すれば世界戦争のリスクがあり、米は派兵を否定した。それはウクライナへのロシア侵攻というパラドックスとなる。大国どうしの合意なき不安定、冷戦敗者の不満軽視と大国外交の不在である。
 
台湾有事は日本有事か
 
 一方で大国の横暴を許さない国際世論、大国の身勝手を抑える国際連携はある。国連安保理が機能しないならば、「ロシア非難・即時撤退」という臨時総会決議、拒否権行使への説明義務決議、併合無効決議など。戦争も温暖化や感染症も、大国の身勝手に任せられない。ミドルパワーの道徳は重要な力になる。
 台湾有事は日本有事か。「(中国、台湾)いずれの一方的現状変更に反対。独立を支持しない」(米)、「(武力は)外部干渉と分離独立分子が対象」(習報告)。日本有事は、日本の選択である。日本の基地からの米軍出撃にイエスなら日本有事。ノーなら日米同盟が崩壊。それを避けたいなら、戦争を回避すること。勇ましいことを言っている場合ではない。
 
勇ましい議論の危うさ
 
 リアリティのない日本の政治と勇ましい議論の危うさ。相手のミサイルを1発も残さない反撃など不可能だ。全島避難や、全国民へのシェルターの確保もできない。食糧自給率30%で戦争ができるのか。北朝鮮のミサイル・核は、あの体制が良いか悪いかは別にしても「米からの体制保証」にある。
 いかにして「国、国民、暮らし」は守られるのか。憲法9条というよりも前文の「理念」として紛争を解決する外交、政治にあるだろう。戦争は政治の選択、政治は国民の選択なのだから。          (要旨/竹田)
柳澤さん、伊勢崎賢治さんらによる近著に『非戦の安全保障論』(集英社新書)がある。