
岸田政権は12月16日、「国家安全保障戦略」(NSS)「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」からなる安保関連3文書を閣議決定した。3文書の最上位に位置するNSSでは、中国や「北朝鮮」の脅威を強調し、「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」という認識の下に、「戦後の我が国の安全保障政策を実践面から大きく転換する」とした。それが「反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有」であり、「軍事費のGNP比2%の達成」である。
反撃能力とは「相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能にする … 自衛隊の能力」のことであり、その攻撃対象はミサイル基地に限定されていない。

無制限の
ミサイル戦争
閣議決定された反撃能力の定義に従えば、日本とその同盟国の米国が武力攻撃を受けるおそれがあると判断すれば、まだ攻撃を受けていない段階で、相手国に対して長距離ミサイル等で攻撃することが可能となる。それは先制攻撃以外のなにものでもない。
まさに日本の国是である「平和主義」からの大転換である。日本国憲法はその前文で、「日本国民は、… 政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」したと宣言している。この憲法を何よりも遵守すべき政府が、「我が国の安全保障政策を大きく転換する」と公言したのだ。事態はきわめて深刻だ。
反撃能力を担う「長距離ミサイル部隊」は陸上自衛隊の基幹部隊として新設されることになった。今年4月、自民党が岸田首相に提出した「国家安全保障戦略」にかんする提言では、反撃能力の攻撃対象に、相手国の指揮統制機能が含まれている。「指揮統制機能」を攻撃目標にすれば、対象は無制限に拡大する。事実、ロシア軍はウクライナのインフラ施設へのミサイル攻撃を「ウクライナ軍の指揮統制機能への攻撃」と主張している。
「厳しい安全保障環境」にあるとすれば、日本の外交は、中国や「北朝鮮」との対話の追求を最優先すべきである。相手側への攻撃能力を高めることでは断じてない。
軍事国債の復活
NSSでは軍事費を段階的に増大させ、2027年度にGNP比2%を達成することが盛り込まれた。今後5年間の軍事費の総額は現在の1・5倍に相当する43兆円に膨らむ。不足額は17兆円に上る。その財源の一部として与党税調は15日、所得税、法人税、たばこ税の増税を決めたが、その実施時期については「再来年以降のいつか」と明らかにしていない。
所得税は、無期限の税額1%の上乗せ。復興特別所得税の半分弱を軍事費にあてる。復興税は東北を救済するために作った目的税だ。被災者のための復興予算の軍事費への転用は許されない。
影響は少子化対策にも及んでいる。政府は「少子化は国の存続にかかわる危機」と位置づけてきたが、1千億円程度のこども予算の安定財源の確保も目途がたたない状況だ。医療・福祉予算の削減も避けられない。
たとえ増税や歳出削減を実施したとしてもまだ13・4兆円が不足する。そこで出てきたのが建設国債の発行だ。政府はこれまで「防衛費を国債発行の対象とするのは適当でない」としてきた。戦前の日本による侵略戦争が、戦時国債の発行によって可能だったという反省にもとづくものだ。政府は戦争の反省をかなぐり捨てて、再び歯止めのない軍拡へ、新たな戦争へと踏み出そうとしている。