
『おもろそうし』(注)に、日の出を表現した神謡(神うた)がある。
「…天に鳴りとどろく太陽よ あけもどろの はな(明けもどろの花)の…さいわたり(咲い渡り)…あれよ みれよ きょらよ(清らやよ) 清らかなことよ(美しいことよ)」
このイメージを持って、今年の元旦「初日の出」には辺野古の浜へ行こうと決めていた。神うたのような日の出の一瞬に過去も未来も考えず、その瞬間に集中したいと思った。座り込み仲間、その出会い。夜明け前の薄ぼんやりとした中での挨拶は、一瞬だけど心が和む。シートの上にはお香、お酒が置いてあり、日の出とともに祈りを唱えた。
初日の出は、雲間から一瞬の閃光が見えたくらい。でも目的は達した。帰り、運転しながら浜の様子を思い出しながら俳句をひねった。
元旦やまた戦前の始ま りや
初日の出 なぜか雲間 に隠れけり
家に届いていた新聞。防衛省のシンクタンク防衛研究所の提言が「中国と長期戦想定」と1面に大きく載っていた。「残存兵力で海上阻止」「沖縄攻撃を前提」とある。これが元旦のトップ記事か…。憂鬱。
(注)『おもろそうし』 沖縄の古謡集(1531~1623年)、13巻「いちいではふへのとりの節」
当たり前の日常が
別の新聞の1面には、2015年ノーベル文学賞作家のアレクシエーヴィチのインタビュー。「誰もが孤独の時代、人間性を失わないで」とあった。ロシアのウクライナ侵略は、遠い異国の出来事ではなく、離れている我々にも影響が及ぶ。その通りである。戦争ができる体制へ、急ピッチ。政権からは軍事費の増額、増税が言われ、「ミサイルだ、戦闘機、潜水艦だ…」と危機煽りが耳に飛び込む。
アレクシエーヴィチは言う。「憎しみという狂気が世界であふれている。それは伝染するようになり、紛争が起きていない国にも似たようなことが起こっている。私たちが生きているのは、孤独の時代と言えるでしょう…誰もが、とても孤独です。文化や芸術の中に、人間性を失わないための拠り所を探さなくては。(中略)近しい人を亡くした人、絶望の淵に立っている人の拠り所となるのは、まさに日常そのものだけ。例えば孫の頭をなでること。朝のコーヒー一杯でもよい。そんな何か、人間らしいことによって、人は救われる」
それでわかった。私の、元旦の初日を見ようとする衝動は、私の魂が救われたかったのだ。