
ナガサキ・ヒロシマの被爆者の子である被爆二世たちが、二世への援護策を取らなかったのは憲法違反であると国に賠償を求めた裁判の判決が、昨年12月12日、長崎地裁で、2月7日、広島地裁でありました。
劣化ウラン弾の被害
いずれも最大の争点となっていた放射能の遺伝的影響については「未だ知見が確立していない」として訴えが棄却されました。従来、国は被爆者には被爆者援護法に基づいて医療費の負担や手当などの援護策を講じていますが、二世は対象外とされ、年一回の基本的な健診だけが唯一の対応となっています。しかしその健診には何よりも重要ながん検査が含まれず、アリバイというほかありません。
被爆(被曝)二世における遺伝的影響は世界中の戦地における劣化ウラン弾の被害を見ても明白です。劣化ウランは砲弾に用いると、鉄や鉛などの他の金属に比べ飛躍的に破壊力が増すため、主に対戦車用の砲弾に使われてきました。
この劣化ウランという放射性物質はアルファ線とよばれる強い放射線を出し、その微粒子が体内に蓄積されることによって、がんや白血病、全身にわたる様々な疾病や障がいを引き起こします。その半減期は45億年と言われ、体内からの除去も困難であり、環境の回復も不可能かつ不可逆的と言われています。
湾岸戦争、ボスニア・ヘルツェゴビナ、旧ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラクで劣化ウラン弾は使われ、戦地の住民はもとより米軍の帰還兵が、がん、白血病、免疫不全、記憶障害などを発症して、若くして死亡した人も多いのです。米国政府は劣化ウラン弾と発病の因果関係をもちろん認めようとしません。
さらに劣化ウランは明らかな遺伝的影響があります。米国でも、例えば戦地のイラクでも新生児の先天的異常が多発しました。その子どもたちは、さらにがんや白血病を発症するおそれがあり、過酷で不安な人生を強制されることになります。今回の裁判所の「未だ知見が確立していない」という棄却理由は世界の実態にそぐわない欺瞞であり、責任回避です。
二世たちの苦しみ
私の父は戦時中、兵隊として長崎で被爆しました。戦後8年たって私は虚弱児として産まれ、四つ違いの弟は40歳で白血病を発症しました。弟は辛うじて「生還」しましたが、重い後遺症を抱え、経済的にも破綻し、家族は離散しました。あるとき、私が弟に父の被爆のことを話すと、彼は血相を変えて「言うな!」と怒鳴りました。その姿を見た私は、弟が被爆二世としてどれだけ傷つき、今でも厳しい闘病生活を余儀なくされていることに断腸の思いでした。
また、今回の判決は戦争被害の「受忍論」を引用しています。「国の存亡にかかわる非常事態のもとで、国民が等しく受忍しなければならなかった」という最高裁判決に基づく「受忍論」は戦後、戦災の被害者の救済を阻んできました。「国民全体が酷い目に遭ったのだから我慢しろ」というわけです。
日本人全体がかつての侵略戦争の責任を負っているとはいえ、戦争を積極的に指導し、強制した国や軍隊と、その下で動員され、反対すれば弾圧された民衆とでは、その責任は当然違います。国の責任逃れの「受忍論」は断じて許せないし、それが今回の被爆二世の裁判でも使われ、棄却の理由とされました。
1988年に発足した全国被爆二世団体連絡協議会によると、二世の数は全国で30~50万人と推定されていますが、その実態は調査されたことがありません。今回の裁判は、一審では棄却されましたが、被爆二世が提訴に立ち上がったことによって、その援護問題を社会に問いかけました。それは世界中に存在する被爆(被曝)二世たちの人権確立に向けた一歩を進めたのではないでしょうか。
闘いはこれからです。「受忍論」に抗して、国の責任を追及しましょう。それはウクライナ情勢の中で、軍拡を推し進める政府に対して戦争を阻止する一翼になるにちがいありません。 (当間弓子)