油井大三郎さん

昨年12月の安保関連3文書改定で岸田政権は、「台湾有事」を想定した軍事費の大幅増と敵基地攻撃能力の保有を打ち出した。「戦争を避ける道」はあるのか。日米関係史が専門の油井大三郎さん(東大名誉教授、日米関係史)が11日、京都市内で講演した。(以下、講演要旨)

軍事優先路線の誤り

日本が再び戦争への道に踏み出さないようにするためには、多大な犠牲者を生みだしたアジア太平洋戦争への反省とその教訓を活かすことが大切だ。第一の教訓は、中国認識の歪みである。現在、喧伝される「中国脅威」論は正確なのか。中国が、その経済発展の土台となったグローバルな貿易自由化を犠牲にして、米国との戦争に突入するとは考えられない。また台湾住民の7割以上が独立を望んでいない。「台湾有事論」は台湾住民の意向を無視している。
第二の教訓は、軍事優先の判断の誤りである。「国家安全保障戦略」などでは、緊張緩和のための外交努力には全く触れていない。それは「満州事変」へと導いた軍事優先路線と類似している。
第三の教訓は、軍部の暴走である。「台湾有事論」の出版物の多くが自衛隊OBによって書かれている。一方、自衛隊関係者内部から「外交なくして戦争は防げない」という声が上がっている。「新たな戦前」が危惧される現在だけに、自衛隊関係者も含めた幅広い国民的な議論が必要である。