
渡辺信雄
団地の周辺にサイレンが響き
紅い山茶花の淡い香りのする花びらが散り敷いている、団地の周りから救急車のサイレンが棟の間に反響してくる。何処へ入るのか、カーテンの隙間から覗く眼がいくつかある。タンカを持った救急隊員が戸口から入り、30分ほどして救急車は出て行ったようだ。
棟の入口にはいつも介護施設や病院の迎えの車が止まり、住人が乗り込んでいく。おそらくデイケアや治療へ行くのだろう。メゾネット型の家の中の階段は狭く傾斜は急で、階段が人を突き落とす。何人か、死ぬか障害を持つ身になった。私も何度か階段を踏み外しかけたことがある。意識を集中していないと危ない。
同僚だった一人住まいの女性は、「不慮の事故」で亡くなった。階段から落ちて首の骨が折れていたという。坂を上がるのがしんどくなった、と話してはいたが。震災を乗りきり六十の坂もとうに越えたのに、話は途中だったよ。あっけないじゃないか。
くれない橋という紅い橋
朝、子どもたちが学校へ行く声があまり響かない。隣家の兄弟の一人が昨年亡くなった。弟の「行ってきます~」、若い母親の「おかえり~」の声が聞こえない。サッカー好きの兄弟は、ボールの蹴りあいをしていた。廊下でボールを転がしたのを、私は拾い返した。いつも洗ったクツが干してあった。難病で入退院を繰り返し、その子は帰ってこなかった。
団地の中央の病院へつながる紅い歩道橋は、「くれない橋」と名付けられている。大量の血液を抜かれた棒状の容器が中空に吊るされている気がする。あの世とこの世をつなぐ橋。橋を渡ったまま帰らなかった人もいる。「A&M」という喫茶店から橋が見える。かつて美しい鮮紅色だった橋。その店で初めて出会った黒い髪をリボン結びにした女性と、白い羽根の話をしたのを思い出す。
散文詩、掲載ありがとうございました。長いのでどうかと思ってましたが、一挙に掲載されてよかったです。紙のほうでレイアウトが大変かなと。厳しい世界の話が多い作今です。社会運動紙として、すぐれています。眼がよくないので、長いものは書けませんが「神戸詩人事件」のこと、そのうちに書きますので。今後とも、よろしくお願いいたします。
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新聞、紙の方の散文詩、三段で巧くレイアウトされています。題名下のカットも小さくかわいいので、読んでみようかという気になりますね。
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