
「昨年5月、ユン・ソンニョル政権が発足してわずか8カ月で韓国がこれほど変わるとは想像できなかった」と語る金光男さん。激動する東アジアと朝鮮半島情勢を分析した。(1月28日、京都市内で講演)
ユン大統領の支持率低迷は、大統領選直後から続いている。ムン・ジェイン大統領の任期中、最後に行われた世論調査でのユン新大統領の支持率は43%で、ムン・ジェインの45%を下回っていた。いわゆる「ご祝儀相場」がユン・ソンニョルには存在しなかった。そして、その2カ月後の4月第1週には、早くも支持37%、不支持49%と不支持が支持を上回る現象が起きている。
危機下で支持率低迷
特徴的だったのは、昨年10月から11月にかけて北朝鮮が相次いでミサイルを発射し、朝鮮半島にかつてない危機が訪れたときだった。南北の緊張が高まると保守系大統領の支持率は上がるはずだが、ユン大統領の支持率はこの状況でも上がらなかった。当時、韓国ギャラップが行った調査では、「北朝鮮のミサイル発射は朝鮮半島の平和にとってどの程度脅威と思うか」という質問に対して、「きわめて脅威的」が41%、「やや脅威的」が30%で、「脅威に感じる」という回答が71%に上っていた。これだけ国民の危機感が高まっていたにもかかわらず、ユン・ソンニョルの支持率は上がらなかったのだ。
潜在的な民主力量
このときの調査で「北朝鮮への対処方式として何が望ましいか」という質問に対して、「平和・外交努力を続けるべき」が67%と、「軍事的解決策が必要」の25%を大きく上回っていた。ここに韓国社会の潜在的な民主力量と、平和を求める願望が健在であることが見て取れるだろう。
このように支持率の低迷を続けていたユン政権だが、韓国リアルメーターの調査では、11月第4週の36・4%からじりじりと上がって、ついに12月の第4週は41・2%になった。これは決して高い支持率ではない。このときの不支持率は56・6%で、依然として支持を上回る現象が続いていたが、とにかく支持率は上昇したのである。
それでは11月後半から12月にかけて一体何があったのか。実はこのとき、貨物連帯の16日間のストが行われていた。
ストに強硬対応
貨物連帯を構成しているのは、コンテナや生コンの輸送労働者だ。韓国では、自分で車を購入し、ローンを返済しながら仕事をしている労働者は、自営業者とみなされ、「労働組合法上の労働者」として認められない。そこで彼らは個人で民主労総の産別労組に加入し、貨物連帯という任意団体を作って活動している。
運輸労働者の長時間労働は深刻で、それが原因で人身事故が相次いだため、「安全運賃制」が導入された。これは2品目に限って、使用者が法定の最低賃金を支払わなければ、罰金を科すという3年間の時限立法。その期限が昨年の11月31日だった。
貨物連帯は「期限撤廃」と「適用品目拡大」の2大要求をかかげて昨年6月、第一次ストを行った。これにたいして政府は「年内に善処する」と回答したが、実際には具体的な行動を全くとらなかった。そのために貨物連帯は11月後半から16日間のストに突入した。
このストライキに対してユン政権は強硬対応をとり続けた。さらに「貨物連帯は労働組合ではない」という理由で公正取引委員会を動員してストを妨害した。
労組弾圧に味を占めた
一般的には、「ユン大統領の貨物連帯ストへの強硬対応に国民が肯定的な反応を示し、支持率の上昇につながった」と分析されている。しかし、もう一歩踏み込んだ分析が必要だ。韓国ギャラップが貨物連帯ストについて行った世論調査では、安全運賃制の「期限撤廃」と「適用品目拡大」という貨物連帯の要求を「支持する」という回答は46%で、「支持しない」の26%を上回っていた。ただし、「スト継続」の是非については、「業務復帰後に交渉すべき」が71%だった。そして政府の強硬策を「支持する」が31%だったのに対して、「間違っている」が51%に上った。つまり韓国の国民は決して政府のスト対応に賛成しているわけでも、貨物連帯の要求に反対しているわけでもなかった。だから依然として不支持が支持を上回っていたのだ。
支持率が上がったのは、対スト強硬策で保守層が再結集し、離反した中道層の一部が戻ってきた結果だった。ところがユン大統領は、労働組合を弾圧をすれば支持率が上がることに味をしめたのである。(つづく)