
日米両政府の下、台湾有事に名を借りた対中国戦争の準備が急ピッチで進められている。ここでは米国の超党派軍事シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)が1月6日に公表した報告書(The First Battle of the Next War)をとりあげる(以下「報告書」)。すでに台湾有事の日米共同作戦計画が具体的に策定されつつあると言われるが、その具体的内容は機密扱いで当局者も口を閉ざし、われわれがその全貌をうかがい知ることは難しい。だが、この報告書では実に細かく戦闘の様相や軍部の問題意識が述べられている。報告書の勧告する内容が日本と台湾で次々と実施されていることから、この報告書は日米軍事サークルが共有する問題意識をストレートに述べているとみるべきだろう。
戦争を煽る報告書
まず、報告が無前提に「中国が台湾に攻めてくる」と仮定して戦争準備の方策を長々と述べていること自体が中国に対する重大な戦争挑発である。
そもそも台湾が独立を宣言しない限り中国が台湾の武力統一に訴える理由がないし、台湾が独立に向かう動きもない。中国脅威論について報告も展開しているが、その具体的な根拠をよくよくたどれば、一部の米軍人が「中国が攻めてくる」と騒ぎたて、これをメディアが大々的に喧伝しているだけである。例えば、米インド太平洋軍前司令官デヴィッドソンが上院で中国の台湾侵攻は「6年以内」だと証言したり、現司令官アクイリノが「この問題はほとんどの人々が考えているよりも切迫している」と語った以外に、「中国が攻めてくる」理由らしい理由がどこにもないのだ。
だから報告は自身と反対の見解にも触れざるをえない。
「そんなことが出し抜けに起きるとは思わない」(統合参謀本部議長ミリー)
「(習近平が)戦争をしたがっているというのは過大広告」(CSIS中国担当クリストファー・ジョンソン)
「(中国が台湾武力統一のオプションをとるかどうかは)台北とワシントンの政治動向にかかっている」(外交政策研究所ロニー・ヘンリー)
「中国政府が平和統一戦略の放棄を真剣に検討している証拠はない」(全米アジア研究所ティモシー・ヘス)
それでも報告は「台湾で確実に戦争が起きるとは言えないが、ありえないというわけでもない。だからこうした紛争のシュミレーションは米国の政策を深めるために重要である」と居直り的に言い放つ。報告の提言に基づいて日米軍部が実際の戦闘準備を進めているのを見れば、むしろ報告自身が中国との戦争を望んでおり、中国に戦争をけしかけているとしか思えない。
しかも、台湾は中国の一部だというのが日米政府の従来の公式見解だ。仮に中国政府が武力統一を目論んだとしても、それは中国の内戦なのである。報告は、外国軍隊が中国内政問題への武力介入を公言したに等しい。
概要
中国軍はミサイルの第一撃で台湾海軍と空軍をほぼ壊滅させ、台湾に兵員を上陸させる。後続部隊の上陸と補給を確保するために港湾と空港の確保を目指した上で、北方に集結する台湾主力軍のせん滅を図る。さらに、これを阻もうとする日米の艦隊、航空部隊、在日米軍基地をミサイルで攻撃する。
米軍は政治判断から陸上兵力は用いず、もっぱら海空軍のミサイル攻撃で台湾海峡の中国艦艇、上陸した中国軍に打撃を加える。中国本土への攻撃は、防空火力が強力で効果が薄いこと、核戦争にエスカレーションする可能性があることから一切行わず、もっぱら海上の中国軍を攻撃するにとどめる。グアムは遠すぎて作戦に不向きなため、台湾に近い在日米軍基地の使用は不可欠である。
双方の戦術や戦略によって戦闘の推移はさまざまだが、24通りの想定をシュミレーションした結果、いずれにおいても中国軍の台湾占領は失敗するが、双方の犠牲は膨大となる。わずか1ヶ月の戦闘で米軍は空母2隻、ミサイル巡洋艦などの艦船7〜20隻、死傷者1万、航空機168〜484機を失う。日本も軍用機112〜161機、艦艇26隻を失う。台湾軍は航空機の半数以上、艦船26隻は全滅。中国軍は航空機155〜327機、艦船138隻、死傷者14500人以上。台湾のインフラは壊滅して廃墟となる。米国の権威は失墜し、その影響は敗北した中国よりも大きい。報告は民間人の死者や被害は一切考慮に入れていない。
これを報告は「ピュロスの勝利」(割に合わない勝利)と呼び、中国軍を圧倒するために膨大な提言を行っている。
衝撃的なその内容の一部を以下紹介する。
(1)「日本との軍事的・政治的連携を深めよ」
「在日米軍基地から出撃する能力は米国の成功にとってあまりにも重要なので、これを軍事介入の必須条件と考えるべきである。日本の基地がなければ、米国の戦闘機・攻撃機は、中国のミサイル攻撃で全般的に無力化されたグアムのアンダースン空軍基地から飛来しなくてはならない。これは、中国がその空軍力を前方展開し、台湾上陸中の地上軍支援に集中させることを可能とする。さらに、日本の自衛隊が参戦しなければ戦力バランスが中国側優位に傾く。米国は日本と70年におよぶ安全保障の緊密な結びつきを有している。こうした連携を維持し、強める必要がある。
日本軍と一緒に働いた経験のある何名かのゲーム参加者は、米日部隊間の運用面での調整を確立することを推奨した。両軍は平時において数多くの共同演習を実施しているが、現行の日本国憲法の解釈は米国との統合(ないし合同)指揮を禁じている。さらに、自衛隊の異なる部門間で司令系統が地理的な一貫性なしに分割されているために、作戦レベルでの有効な同盟調整が抑止されている。
米日間の戦時調整を調べると、安保条約の解釈の不一致が存在するかもしれないことが明らかとなった。日米地位協定は米日間の「協議」に言及しているが、この文言ともともとの防衛条約が何を要請しているのかはいずれも曖昧である。多くの日本側当局者は、日本本土から日本防衛以外のいかなる目的でも戦闘に出撃する場合は、事前に米国が日本の許可を得ることが必要だ、と解釈している。しかし、米国側当局者は、「協議」とは米国の意図を日本に通知することだと見なしがちである。危機に際して戦争プランの遅延や妨害をもたらすことがないように、この不一致は直ちに解決しなくてはならない。」(p.116-117)
▼報告は、自衛隊を米軍補助部隊として米軍傘下に完全に組み込むこと、在日米軍基地の自由使用が戦争の絶対条件だとしている。米軍が在日米軍基地をどのように使おうとも日本政府に口出しする権利がないことを確認せよ、と迫る報告の主張は、〈米軍による日本占領の継続〉という日米安保体制の本質をむきだしにするものだ。
(2)南西諸島の要塞化
「軍の計画では、危機が切迫すれば、他国領土への米軍の部隊派遣を想定しているようである。特に陸軍と海兵隊はMLR(海兵沿岸連隊)とMDTFs(マルチドメインタスクフォース=多領域部隊)を紛争が始まる前にフィリピン、台湾、あるいは日本の島嶼地域前方に配備することを考えているようだ。中国海軍と対艦ミサイルで交戦できる距離までこれら部隊を接近させることができるので、これは軍事的には望ましいことである。Dデイ(上陸日)の後では中国には米軍の移動を遮断する能力があることから、米軍の多大な能力を発揮するうえで戦時前の部隊展開は決定的である。
危機になれば単純に一度だけ派遣すればいいというわけでもない。離島のいかなる米軍部隊も、紛争が始まる前の段階ですべての補給物資を備蓄する必要がある。ひとたびこれらの離島にたいして中国が防御地帯を確立すれば、これを突破して物資を搬送することがあまりにも困難だからである。兵站には数百発のミサイルが含まれる。一個中隊12機の爆撃機は一度の攻撃で200発以上のミサイルを発射する。紛争で重要な役割を果たすためには、前方展開地上軍はこれに匹敵するミサイル攻撃を繰り返し紛争地帯に行うことが必要となろう。」(p.117-118)
「地上軍は十分な火力を提供しないだろう。長距離巡航ミサイルで武装した爆撃機1個中隊は、移動と補給が妨害されなければ、沿岸海兵連隊のすべてよりも大規模な火力を有する。地上配備の対艦部隊は紛争開始前に膨大な数のミサイルと共に派遣するか、空海軍による長距離打撃力の前方センサーとして機能することが求められる。
これは沖縄南西諸島やフィリピンに派遣される沿岸海兵連隊にもあてはまる。あるシナリオでは沿岸海兵連隊が南西諸島にあらかじめ配置された。この場所からは台湾北部を移動する中国の海軍力を攻撃することができたものの、補給はあまりにもリスクが高いとみなされた。
別のシナリオでは、沿岸海兵1個連隊がフィリピン諸島からルソン島に移動した。ここからは台湾南部を移動する中国軍を攻撃できたが、ここでも補給は不可能で、その価値は限定的だった。
すべてのシュミレーションで、空輸して派遣することが可能な沿岸海兵連隊とハワイの陸軍多領域部隊が存在したが、米側プレーヤーの誰一人、これら部隊の前方展開を求めなかった。その代わり、米側プレイヤーは脅威にさらされた空港の防衛に資することのできるパトリオット大隊を優先した。中国の空軍とミサイルの度重なる攻撃によって、これらが求められたのである。
そのため、本プロジェクトチームは中国空海軍能力に反撃する陸上展開戦力を引き続き発展させることを勧告するが、彼らを派遣する困難さも認識する必要がある。こうした新しい戦力編成は従来の地上戦力よりも役に立つ一方で、最初の数部隊しか成功裏に展開することができないので、これら特殊部隊を増やす価値は限られている。展開できなかった部隊は座視しているだけだろう。最大でも2つか3つの部隊しか展開できない。
地上発射型の長距離ミサイルを確保すればこうした制約は受けないだろう。もし陸上発射型トマホークが垂直発射システムのミサイルと同程度の射程を有していれば、中国の防衛ゾーンを移動することなく、平時から沖縄基地に配備することができる。」(p.131)
▼21年12月に共同通信がスクープした台湾有事の日米共同作戦計画では、台湾危機が緊迫した段階で鹿児島から沖縄にかけて40の島に米海兵隊が臨時の軍事拠点を置き、高機動ロケット砲システム「ハイマース」で中国艦艇を攻撃、自衛隊が弾薬搬送などの補給任務に当たるという(21年12月24日沖縄タイムス他)。この作戦計画を先取りする形で、すでに自衛隊のミサイル部隊が奄美大島、沖縄本島、宮古島に展開され、現在石垣島と与那国島にも配備が計画されている。
自衛隊のミサイル基地配備は「事前の大量配備が望ましい」という提言内容にほぼ沿っているが、海兵隊が有事に緊急展開する計画は中国のミサイル圏内で移動と補給がほぼ不可能なため、報告によれば限定的な役割しか果たさない。これは台湾有事で出番がない海兵隊の「ためにする」作戦という側面が強く、兵站にあたる自衛隊に多大な犠牲が見込まれる。日米共同作戦のなかでも海兵隊のこの作戦だけがリークされたのは、自衛隊の一部が軍事的に無意味な行動に反発していることの現れかもしれない。
戦闘にどれほど貢献できるかを自衛隊が米軍と競っているような状況で、いずれにせよ南西諸島のミサイル拠点化が凄まじい勢いで進められている。報道によれば、ミサイル戦争の舞台とされた沖縄県民の避難計画は存在せず、米軍と自衛隊は自治体で勝手に避難させろ、というスタンスだという。こうした動きに対して「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」が22年3月に結成され、「沖縄を二度と戦場にするな」と訴えている。
(3)民間空港の軍事利用
「野天に駐機した航空機への攻撃は実際のところ密度の問題であり、攻撃地点にあるそれぞれの航空機が破壊される可能性は、ミサイルがカバーするトータルな範囲(分子)と駐機エリアのトータル面積(分母)によって決まる。…空軍の航空機を民間空港に分散配置すれば、中国が攻撃しなくてはならない面積を著しく拡大し、これによって米国と日本の損失を減らすことができる。メンテナンスと支援人員が多様な地点に分散することで作戦効率は落ちるかもしれない。しかし被害を受けた軍事空港で稼働することを考えれば、この程度の効率低下はおそらく受け入れられるだろう。航空自衛隊の基地もそれぞれ各地方の民間空港とペアリングしているように思われる。
そういうわけで[シュミレーションの]派生的ケースでは民間空港へのアクセスを拡大している。もし米国と日本が、中国軍ミサイルの多弾頭がカバーするよりも広い範囲に航空機を駐機できれば、中国は一機ごとにミサイル一発を費やすことになる。こうすることで中国の[ミサイル]ストックは急速に使い尽くされるだろう。」(p.82)
「(空軍基地の)強化と並んで、米国と日本は民間国際空港へのアクセスを確保するために取り組まなくてはならない。基本となるケースでは、空軍は軍事空港1箇所につき地方の民間空港1つを使うと仮定している。これは、一連の膨大な民間空港や、とりわけ大規模な国際空港にアクセスすることで増強することができる。中国のミサイル攻撃は攻撃する面積の問題なので、ミサイルがカバーしなくてはならない面積を広げることが有効な対抗策となる。日本の民間空港への平時の、そしておそらく有事のアクセスは、地域の政治的反対によって妨げられるかもしれないが、決算の重大さからみて強力に取り組むべきである。」(p.127)
▼日本の民間空港を盾にして中国軍ミサイルから米軍機を守るというのだ。本文からすれば、全国の民間空港、特に成田・羽田・関空・中部・福岡の各空港は間違いなく米軍の出撃基地となる。長距離滑走を有する「民間国際空港」を報告が特にとりあげているのは、台湾有事において米軍が地対艦ミサイルを大量に運搬できる爆撃機の運用をもっとも重視しているからである。
おそらく国交省幹部レベルには日米合同委員会を通じて空港を軍事利用するという指示がすでに伝わっているはずだ。成田空港拡張に反対する市東さんの農地取り上げが急ピッチで進められてきたのもこのためだろう。
空港だけでなく、目標をそれたミサイルや迎撃で破壊されたミサイルが周辺市街地に降り注ぐだろう。
(4)「地対艦ミサイルを備蓄せよ」
「弾薬の消耗は激しい。3,4週間の紛争期間中、米軍はたいていの場合、長距離精密ミサイル、特に空対地スタンドオフミサイルと長距離対艦ミサイルを5千発は使う。すべてのシナリオで、米国は長距離対艦ミサイルの備蓄すべてを最初の数日で使い尽くした。空対地ミサイルの備蓄は戦争第3週か第4週になるまで欠乏することはなかった。
長距離空対地ミサイルが海上攻撃能力を有するという設定のシュミレーションでは、米国の弾薬が豊富なので米側の戦略はきわめて単純だった。1個中隊12機の爆撃編隊は約200発のステルス性スタンドオフ型対艦巡航ミサイルを搭載し、米国は急激に中国艦隊を無力化して侵攻を挫折させることができる。こうした理由から、この問題を検討した多くの研究が対艦兵器の備蓄を拡大するよう勧告している…。
スタンドオフ型対艦兵器を膨大に蓄積していないと、空軍は長距離対艦ミサイルがなくなれば短距離の統合攻撃ミサイル(JSM)や統合スタンドオフミサイル(JSOW)で中国艦船を攻撃しなくてはならない。JSMやJSOWの攻撃範囲が限られているということは、攻撃のために中国の地対空ミサイルや空中管制機のエリア内に進入しなくてはならないことを意味する。これは損耗の増大と作戦の失敗をもたらすだろう。長距離空対地ミサイルの代わりに長距離対艦ミサイルを大量に備蓄すれば、こうした問題は生じない」。しかし米空軍は海上の標的を重視してこなかったので、「空軍の空対地ミサイルの備蓄が6500発なのに対して、長距離対艦ミサイルの備蓄はわずか100発である。海軍はもっと長距離対艦ミサイルを保有しているが、空軍爆撃機にできるようなミサイルの大量一斉発射能力は持っていない。」
▼米日軍は台湾有事で中国軍の上陸艦艇に攻撃を集中する。中国の防御圏外から攻撃しないと被害が激増するものの、そのための長距離ミサイルが足りないというのである。国民への説明は一切なされないが、自衛隊が一二式地対艦ミサイルの長距離化を急ぎ、トマホーク500発を米国から買うのはこうした問題意識に沿っている。だが自衛隊には目標を探知・追尾する能力がなく、米軍の情報と指示に頼らなければミサイルを運用できない。米軍の作戦を分担するためだけに何兆円もの高額兵器を購入するのだ。
「北朝鮮のミサイル迎撃」を口実に購入したイージスアショアシステムも、トマホークを積んで台湾有事で中国艦艇への攻撃に使われる。
米本土への報復を恐れる米軍は中国本土の基地を攻撃しない。「反撃能力」云々はただのレトリックで、標的は「台湾海峡の中国艦艇」だったのである。
以上は報告の一部にすぎないが、その恐るべき内容に戦慄を覚える。自衛隊が第2米軍と化して、憲法9条はもとより集団的自衛権すらおかまいなしで中国との戦争に突入しようとしている。沖縄だけの問題ではない。日本全土が米軍の盾となって戦場化するのだ。大規模な反戦運動の構築が求められている。