強制執行後の自宅でいつも通り出荷作業を進める市東孝雄さん(左端)=2月20日(「関実ニュース」185号から)

 2月15日夜、市東孝雄さんの天神峰農地の収用が強行された(前号速報)。成田空港会社NAAは1000人を越える機動隊と作業員、重機を動員。抗議する市東さん、反対同盟、支援者を突き飛ばし、執行官(千葉地裁)の執行令状の読み上げが行われたのかも分からぬまま、強制収用は始まった。丹精込めた農地を踏み荒らし、作業小屋、育苗ハウス・ビニールハウス、はなれ、空港を監視し農民の心意気を示す看板とやぐら、多くの立木を、重機で押しつぶした。
 さらに対象農地をフェンスで囲い込み、支援者3人を不当逮捕した。強制収用への抗議行動は、15日夜から翌日まで30時間にわたって続いた。
 今回の強制執行は、空港に反対する農民が生きることを許さないという国家権力の意思表示だ。またそれは、昨秋から始まったB滑走路の延長工事と第3滑走路着工が近づくなかで、買収や移転を拒否する人びとへの恫喝と脅迫でもある。

違法・不正の強制執行

 1971年の大木よねさん宅に対する強制執行以来の暴挙である。対象となった天神峰の農地は、小作地とはいえ、市東家が親子3代100年以上にわたって開墾・開拓し育んできた農地だ。孝雄さんの父、とういち東市さんの戦地からの復員が遅れたため、戦後の農地改革に間に合わず、小作地のままになっていただけで、名実ともに「市東さんの農地」である。
 耕作者である市東東市さんの同意もなく不在地主から土地を違法に買収したのはNAAだ。市東さんがNAAから「不法占拠」呼ばわりされるいわれは微塵もない。またNAAが農地法を使って「農地明け渡し」を求める裁判では、最高裁がこれを是認したが、農地法は「耕すものに権利あり」という農民の権利保護の法律だ。その農地法で農民から農地を奪うなどとはありえない話だ。
 1990年代、成田空港に対する土地収用法の期限切れを迎えるなかで、政府・運輸省(当時)は反対派農民に対して「今後は強制的手段をとらない」と約束していた。今回の強制収用は政府の公式の約束を反故にしたものだ。NAAは「法に基づいてやっているので強制的手段ではない」というが、全く理由になっていない。市東さんに対して国とNAAが行ってきたことは、まさに不法・違法・無法のオンパレードであり、強制収用はその集大成である。
 国家暴力を振りかざして、市東さんと反対同盟の意志を力ずくで押しつぶそうとする試みが成功することはない。
 収用直後から、市東さんは自宅隣に「作業小屋」の再建に取りかかった。天神峰で耕作を続ける。生活と闘いの要である産直運動も健在である。NAAは「Bラン誘導路の直線化のため」というが、今回の収用で直線化はできない。「農地は命」の闘いは続く。 (野里 豊)