「泉明石市長 内閣委員会 参考人質疑」のユーチューブを視聴し、衝撃を受けた。いろいろマスコミを賑わせている明石市長であるが、明石市はさまざまな課題で自治体ランキング1位や上位を占める。泉房穂氏は、「『子ども』から始めれば『経済』も回る」と断言する。70億円の市の基金を50億円増やし、市政では反対勢力だった建設業界も「民間需要が潤い出した」とその功績を認める。

弟の障がい

本書の冒頭に「『冷たい社会』への復讐を誓ったのは、小学生の頃のことだ」とある。弟が障がいを持って生まれ、「不幸な子どもの生まれない県民運動」によって殺されかけた。未遂に終ったが、前途を悲観した母親が無理心中をはかった経験を持つ。泉氏のささやかな「復讐」の結果が、今の明石市の行政に表れているのかもしれない。
施策方針の決定、予算編成、組織人事で市長権限を最大限行使するが、予算や条例制定には議会の承認が必要となる。既得権益の擁護を図る反対勢力に何度も阻まれ、百数十件の殺害予告や自宅への汚物投げ込みがあった。泉氏は、相当の気骨と剛腕の持ち主かと想像する。 
泉氏による市政には、さまざまに意見がある。むしろ議論が広がる方がいいだろう。「火をつけてこい」という暴言で2019年に辞職したときの出直し選挙では、30代の9割が泉氏を支持し、投票所前にはベビーカーの行列ができたという。30人の市会議員のうち、氏を支持したのは最初は1人だけだったが、最後は10人近くになった。

市民の声を聴く

世界の自治体行政のトップに学ぶ理想の高さがすごい。「市民の声を聴くのがモットー」というから、市民運動との連携はどうだったか。興味は深々なのだが、記述されていない。
彼が毎回自戒する「横暴な発言」は部下・個人へというよりも、社会を変えることを拒む分厚い壁、社会の怠慢への抗議・叱責であるかもしれない。そう言えば、言い過ぎだろうか。もちろん暴言は許されない。
「社会や政治は変わらない」という諦念は、麻薬の効能に近い。変えることは全く可能であると12年間の市政で示した泉氏に、「お疲れ様、大変でしたね」と言ってみたくなる。今、社会を変える大きな運動を始めなければ人類はとんでもない方向に転落していくかもしれないから。 (石田)