3月6日、韓国政府は「徴用工問題の解決策」を発表した。日本企業による元徴用工(強制動員被害者)への賠償金の支払いを、韓国政府傘下の「日帝強制動員被害支援財団」(2014年発足、以下支援財団)が肩代わりする、「第三者弁済」という方策である。
賠償金40億ウォン(4億2千万円)の財源は、日韓条約に伴う計5億ドルの経済協力金で成長した韓国企業などからの拠出によるもので、日本企業は1円も求められない。
日本の最高裁にあたる韓国大法院は2018年11月、強制動員被害者の「強制動員慰謝料請求権」を認定し、三菱重工と日本製鉄(旧新日鉄住金)に対して賠償命令を出した。一方、日本政府は一貫して「日韓条約・請求権協定で請求権は消滅」と主張し、日本企業と被害者とが交渉すること自体も妨害してきた。また韓国のユンソンニョル尹錫悦大統領による日韓首脳会談の求めに対して日本政府は、「元徴用工訴訟への韓国政府の対応を見極めたうえで判断する」(22年9月13日付日経新聞)として、韓国側に圧力をかけ続けていた。この不当な圧力に屈するかたちで「解決策」を発表した尹大統領にたいして、韓国では批判の声が高まっている。

植民地主義の根深さ

18年の大法院判決は被害者たちの損害賠償請求権について、「未払い賃金や補償金を要求するものではなく、日本政府の違法な植民地支配および侵略戦争の遂行と直結した日本軍需会社の『反人道的不法行為』に対する『慰謝料請求権』」であるとした。
判決で明らかなように加害者が支払うべき慰謝料を、どうして被害者側が肩代わりしなければならないのか。誰がどう見てもおかしい。
しかも「解決策」の決定過程で当該の強制動員被害者の「日本企業の謝罪なしの金はいらない」という声は無視された。
加害者の責任を被害者になすりつけておきながら、「コメントする立場にない」と涼しい顔をしている日本企業。そのてん恬として恥じない姿を異常だとも思わずに、「最悪の日韓関係が改善の方向に向かっている」と政府見解を無批判に垂れ流す日本メディア。こうした転倒した状況の一切合切に、日本の植民地主義の根深さが見られる。

原告は解決策を拒否

韓国民法では、当事者が拒否すれば第三者弁済はできない。遺族も含めた原告団は15人、うち本人の存命者は3人。いずれも90代半ばだ。13日、3人は支援財団に「第3者弁済を拒否する」と通告した。原告側弁護団は、「日本企業の資産現金化手続きは進行中」と発表した。他にも大法院9件、高裁6件、地裁52件が係争中だ。直後の韓国ギャラップの調査では賛成35%、反対59%。徴用工問題は、日本の植民地支配がどれほど「反人道的不法行為」(大法院判決文)であったかを顕著に示す問題である。
「尹錫悦は第2の李完用(イワニョン)だ(1910年の日韓強制併合に署名した)」「尹錫悦打倒」と、キャンドルデモは数万規模に拡大している。

真の関係改善へ

今回、岸田政権は、「歴史問題はこれまでの歴代政府の反省とお詫びの立場を継承する」という。発言をよく聞くと、政府関係者は「強制動員」や「徴用工」とは言わず、「旧朝鮮半島出身者」問題という。18年大法院判決の後、安倍の指示で「全部が強制ではないので」「誤解されないように」言い換えが決められたのだ。真実を曖昧にするために小手先で用語を変えることのどこに「反省と謝罪」があるのか。
政治権力や経済界の思惑や利害のための「日韓関係の改善」は不要だ。私たちが謙虚に歴史を学び、被害者の人権回復のために日・韓・アジアの市民・労働者と交流し、たたかうことが真の「関係改善」を前進させ、和解と連帯の世界が構築できる。   (新田蕗子)