
史上初めて主要経済国のすべてが左派政権となったラテンアメリカ。その歴史、経済、最近の政治情勢について、ラテンアメリカ政治経済研究会の一井不二夫さんが講演した。(3月18日、滋賀県大津市内/多賀信介)
植民地支配の歴史
ラテンアメリカ(LA)は、北米のメキシコ、中米、南米、カリブ海諸国、計33カ国。対するアングロアメリカは、アメリカとカナダだけだ。
日本は、非鉄金属の43%をLAから輸入している。ベースメタルでもレアメタルでも、LAは主要な産出国である。電気自動車などで今後需要が高まるリチウムは、埋蔵量の半分以上をLAが占めている。またLA諸国の最大の貿易相手国は中国である。
LAには、アステカ、マヤ、インカなど高度な文明が存在していた。しかし、1492年以降、スペインとポルトガルによって植民地化された。1521年、スペイン人コルテスがアステカ王国を征服した。1533年には、同じくスペイン人のピサロがインカ帝国を征服。スペインは植民者に統治を委任する制度=エンコミエンダによって大土地所有と先住民の奴隷化を進めた。またアシエンダとよばれた大農園制ではアフリカから奴隷が導入された(19世紀に解放)。
その後の資本主義経済の発展の中で、砂糖・コーヒー(ブラジル、カリブ海)、バナナ(中米)などのプランテーション(大農園)が作られ、モノカルチャー化が進行するなかで、強力な階級支配が形成された。
独立、米国の介入
1820年代にスペイン植民地は独立していくが、大企業とつながった米国がLAに介入する。多国籍企業と支配階級の一体化によってLAは新植民地主義の時代を迎える。米国は米州機構(OEA)、米州士官学校、各国の米大使館などを使って、諜報活動やクーデターをおこなった。
1959年のキューバ革命は、そうした中で起きたのである。キューバの革命政権は、経済成長と安定、民主的な政府、識字率の向上、富の分配と土地改革をおこなった。1960年代は、コロンビア、ウルグアイ、ニカラグア、エルサルバドル、ペルー、チリなどでゲリラ活動が活発になった。
しかし、米国の介入と軍事クーデターによって1970年代以降は軍政の時代となる。そして1980年代以降は新自由主義政策の時代になり、貧困率・貧困格差が激しくなっていった。
ゲリラ闘士が大統領に
LA諸国では、新自由主義政策にたいする抗議行動が大きくなる中で、2000年代に左派政権が次々に成立する。ベネズエラのチャベス政権、ブラジルのルラ政権などだ。左派政権の登場によって、貧困格差の是正や、ラテンアメリカの統合などが進展する。
しかし世界経済悪化の影響をもろに受けたLA諸国は、2010年代に入ると、右派政権が復活する。ブラジルのボルソナロ政権などだ。しかし2020年代の今、左派政権の波が起こっており、「第2のピンク・タイド(ピンクの潮)」と呼ばれている。共産主義化=赤化までいかない左傾化という意味だ。
チリでは、2011年の学生運動のリーダーだったボリチが36歳で大統領に、コロンビアでは左翼ゲリラの闘士だったペトロが大統領になった。左翼ゲリラだったウルグアイのムヒカも有名だ。
1980年代にゲリラとして武装闘争に参加していた人物が大統領に選出される背景には、軍事政権の弾圧やそれを操る米国にたいする民衆の怒りが大きさがある。今もLAのデモの先頭にゲバラやシモン・ボリバルの写真が掲げられているのは、民衆の汎ラテンアメリカの意識が高いからだ。今後のグローバルサウス、LA諸国が世界経済の中で大きなポジションを占めていくことは間違いない。日本が米国一辺倒のままでいれば、世界の流れから取り残されてしまうだろう。