
ロマの写真展示が名護市の愛楽園施設内の交流館であった。愛楽園はハンセン病の療養施設であり、高い共感力をもつ人たちがいる場所である。
撮影は、フォトジャーナリスト小原一真さん。一般的なロマの生活紹介ではなく、ロシアによるウクライナ侵攻で避難し、避難先で差別されたロマの人たちの姿である。
自然の民 ロマ
ロマは10世紀頃、北インドから西へヨーロッパの方向に移動生活を送って来た人たち。世界中に1千万人、ウクライナに40万人いるとのこと。
私のロマ観は、音楽部にいた頃に歌ったシューマン作曲の『流浪の民』であった。エジプトに起源を持ち、故郷を追われスペインからヨーロッパに流浪するという認識で作詞、作曲されていた。
♪ぶなの森の葉隠れに うたげほがい寿ひにぎ賑わしや 松明、あかく照らしつつ 木の葉敷きて うつい(座る)する これぞ流浪の人の群れ まなこ眼光り髪清ら ニイル(ナイル)の水にひた浸されて きら煌ら煌ら輝けり♪ 以下略(石倉小三郎訳)
歌詞はドイツロマン派の詩人エマヌエル・ガイベル(1815~84)の詩をもとに書かれたもの。作曲は1840年という。
異質、排除の対象
ロマは自然と共に生き、歌、踊りを好み、流浪の身ながらも人生を謳歌しているイメージがある。兵士にもならないと言われていた。それが、写真で見るロマの現実は違う。定住ロマも差別をおそれ出自を明かせず、戦火を逃れて来た国でも差別的扱いに苦む。シューマンの歌ったロマと現在のロマとの差には何があったのだろうか。
ヨーロッパは1848年革命(諸国民の春)を境に、王の国家(絶対王政)から国民が主役の国民国家が生まれてくる。『全体主義の起源』(1951年)を書いたハンナ・アーレントは、「国民が主権者となる国民国家が成立すると、国家は国民の同質性・求心性を要求する」と述べている。
国境も越え移動する遊動性民族のロマは異質であり、排除の対象になる。そこに一つの原因があるかもしれない。国民国家が同質性の追求という未熟を抱えているが故に、それを是正していく不断の努力が求められる。
日本は一つの民族か
麻生財務大臣(当時)は、19年に行われたラグビーワールドカップ大会での日本の活躍にふれ、「2000年にわたり一つの国、一つの民族、一つの王朝が続く国は、日本だけ」と誇らしげに述べていた。ロマへの差別と同様なものがある。
日本はいびつな入管法で外国からの移住を極力抑えている。アイヌを先住民族と認定したのは最近の07年である。在日コリアン、沖縄の先住民族の問題もちゃんと見据えれば、同質性を求めるという問題性を抱えている。
4月1日、「沖縄県差別のない社会づくり条例」が施行された。同質性ではなく、多様性が大切という認識を拡大していく機会になると思う。日本中に波及して欲しい。なお4月8日はロマの国際デーであり、ロマのコミュニティが直面している問題に対する認識を高め、ロマ文化を祝う日である。 (富樫 守)