韓国ドラマの『賢い医師生活』をみていたら、主人公たちのバンドグループがロック調でパッフェルベルの〝カノン〟を演奏する場面がありました。懐かしいなと思いつつ定年前のしんどい数年間がよみがえりました。
人間、誰しも生きていく上でにっちもさっちも行かなくなるときがあります。解決の糸口が見つからない、逃げ出しもできない状態に。そのころ、ぼくの口癖は「アカンわ、もうアカン、やっぱりアカン」。連れ合いには「仕事、辞めたい。辞めさしてくれや」でした。
世の中が薄暗く見え、ぼく以外の人びとが明るい表情なのです。頭の中がグルグルしていました。こんなことになったのは、みんな自分のせいだ。全部自分が悪いのだと思いました。
心療内科を受診、2週間の診断書。家でふさぎ込む生活の中、唯一こころの安らぎになったのが、Pachelbel IN THE GARDENという、CDから流れてくる音楽でした。人には、その人に合ったメロデイがあるのだと思う。クラシック音楽に縁遠いぼくが、パッフェルベルのバロックに引き込まれたのでした。
パッフェルベルのカノンはバイオリン3ちょう挺で演奏するよう作られた曲なのですが、ジョージ・ウイストンの奏でるピアノのカノンは本当にすばらしいです。
韓国映画『猟奇的な彼女』の中で、主人公の女子大生が大学のホールでカノンをピアノで弾く場面があります。ピアノを演奏する彼女に、バラの一輪を差し出して愛を告白するキョヌ(写真上)。あのシーンも印象に残っています。試練に打ちかつのが正しい生き方だろうけど、音楽に癒されて時を待つしかない生き方もあります。(道郎)