故郷の時間
            渡辺信雄

山間の村に帰る沿道に
積み重なった廃車
看板に大きなリンゴの形をした
道の駅で
笹うどんを食べたのは一昔前
父母のいなくなった村は
廃墟ばかりが増えていく
鯉のぼりもみかけない
山腹に 薄紫の山藤
リンゴの白い花が 点々と咲いて
実がなる秋を待ち
家族で収穫し かじった
新鮮な 果汁の滴
戻ることのない
あの日の桃源郷の村