『永続敗戦論』『長期腐敗体制』の著者で知られる白井聡さん(京都精華大教員)が、5月3日、滋賀県大津市の憲法集会で講演した。(以下要旨/本紙編集委員会)

敗戦否認と現実否定

戦後の核心は、敗戦の否認と現実の否定である。「後悔」も「反省」もせずに「新たな戦前」という状況になってきた。
台湾有事が喧伝されているが、台湾の国民党と民進党は戦争を避けることでは一致している。中国政府は「内政問題であり、台湾の独立は認めない」と表明している。このような状況で「台湾有事」は起こりそうにないが、もしそうなったとき、日米が介入すれば、中国からの食糧輸入がストップし、日本は飢餓に陥る。
戦前の日本は石油を米国に依存していたが、その米国に戦争を仕掛けた。戦争とは不合理なものだ。 自分の手を汚したくない米国は、日本を動かそうとしている。日米安保条約の密約では、戦争が始まれば自衛隊は米軍の指揮下に入ることになる。米軍は自衛隊に先制攻撃をさせるつもりだ。
そのための安保3文書改定であり、敵基地攻撃(先制攻撃)能力の保有、軍事費GDP比2%だ。日本政府はトマホークやイージスアショアなど、米軍では不要の旧式兵器を買わされている。大増税は不可避で、米国のために日本は崩壊しようとしている。日米関係は「対等」でも「トモダチ」でもない。国どうしの関係は打算。米国は常に自国ファーストだ。

菊と星条旗

戦後日本の国体は菊(天皇制)と星条旗(米国)が結合したもの。それは世界に類を見ない卑屈な対米従属である。
戦前、日本国民は天皇のために命を懸けたが、はたして米国のために命を懸けられるだろうか。今の日本経済は戦争前に破綻する可能性がある。その方が戦争になるよりましだ。昨年9月、ロシアとドイツを結ぶガスパイプラインが爆破されたとき、米側はロシアがやったと言い張ったが、最近、米海軍の特殊部隊が実行したとスクープされた。欧州が協力しないならその経済基盤を破壊すると恫喝するのが米国だ。
3月10日、サウジアラビアとイランが中国の仲介で国交正常化した。中東における米国の地位低下を象徴する出来事だ。米国はロシアをドル決済から排除したことで、逆にブリックス諸国のドル離れを進行させた。超大国が没落する中で、核抑止は機能するのか。核攻撃は極端な話ではない。
危険な国際情勢だが、日本では政治的無関心と無気力が進んでいる。9条を変えなくてもここまでできるのだ。政府にとってもはや、改憲の必要はない。護憲運動はこの状況をどうするのか。これが敗戦と対米従属を否定してきた結果であることを人びとは考えるべきだ。    (多賀信介)