講演する河かおるさん(滋賀県立大学教員)=5月20日、大津市

5月20日、「滋賀県に包括的差別禁止条例を!~国連人種差別撤廃委員会からの勧告を地方から受けとめよう~」と題して、河かおるさん(滋賀県立大学教員)による講演が行われた(写真上、戦争をさせない1000人委員会・しが主催)。

命を奪う差別

今年は1923年の関東大震災における朝鮮人虐殺から100年に当る。当時、関東圏には約2万人の在日朝鮮人が住んでいた。そのうちの3割にあたる約6000人が殺されたのである。
差別は人命に関わる問題だ。人命を奪う交通事故を防止するためには道路交通法が必要であるのと同様に、差別されない権利を実現するためには、差別を禁止する個別法とともに包括法が必要なのである。
日本は、国連人種差別撤廃委員会から、直接差別も間接差別も禁止する包括的な人種差別禁止法の採択をはじめとして、多岐にわたる勧告を何度も受けている。政府が動こうとしないのなら、地方から動きを始めるべきだ。日本で罰則規定のある差別禁止の条例があるのは川崎市だけだ。ただしその罰則は違反行為3回目で発動する不充分なものだが、それでも市内のヘイトデモは激減した。

知事が暴言を非難

三重県には差別解消条例があるが、罰則規定はない。だからといってこの条例が無力ではないことが、昨年示された。
昨年10月、朝鮮民主主義人民共和国がミサイルを発射した翌日、三重県四日市市の朝鮮初中級学校の男子児童が登校中に通りすがりの男性から「ミサイル撃つなと言っとけよ」と暴言を吐かれた。この事件に対して三重県知事は、「ミサイルを撃っているのは国であって、日本に住んでいるその国の国籍の人たちに非はない」と強調し、県の差別解消条例を根拠に、「県としても啓発活動を通じて差別をなくしていくべきだと考えている」と述べた。これは、日本の現状では重要な前進だ。

滋賀で条例制定を

河さんは滋賀県で包括的差別禁止条例を制定するための運動を呼びかけ、リャンヨンソン梁英聖氏の著書『レイシズムとは何か』(ちくま新書)の一節を引用して講演を締めくった。
「在日コリアンが差別について沈黙を強いられているのはヘイトスピーチのせいではない。社会正義としての反差別規範なしにマイノリテイーを承認しようとする多文化共生や、差別する自由を守りつつ被害者に寄り添おうとする日本型反差別こそが、私たちの絶対的沈黙状況を背後から支える権力関係なのである」。