今年4月の統一地方選で特に目立ったのは、「維新の会」の伸長である。この現象をどう見るのかをテーマにした研究会が京都市内で開かれ、龍谷大学の村澤真保呂教授が講演した(6月3日)。

「大阪人気質」の変化

村澤さんは、2010年を前後して大阪で巻き起こった異常なまでの「橋下徹人気」の原因として、大阪人の気質(メンタリティ)の変化に注目する。かつて「なにわっ子気質」といえば、「反権威的」「いいかげん」「ふまじめ」「打算的」と言われてきたが、一方で大阪は「関西地方のなかでも貧しい地域が多い反面、助け合いの気質と下町人情」が残っている地域だった。そのような大阪人気質とは正反対の新自由主義的な弱肉強食のメンタリティを全面に押し出した橋下徹と「維新の会」を熱烈に支持するようになったのはなぜか。 転機になったのは、80年代から90年代、とくにバブル経済の全盛期に大阪を襲ったグローバル化の波だった。「義理・人情」や人間関係に依存し、外から見れば「がめつい」と表現される大阪商人の独特のビジネス・スタイルは、「グローバル・スタンダード」のかけ声の下で駆逐され、大阪の大手企業も次々に本社を東京に移転していった。
グローバル化に伴って他地域から流入してきた「新住民」とよばれる中・高所得のサラリーマン層は、しばしば「旧住民」との間で感情的な対立に直面した。「旧住民」は自治会などをつうじて政治にパイプを持っており、彼らの利害は公共事業、地域の商業振興策、人権政策などに反映されやすかった。一方、政治にパイプを持たない「新住民」にとってそうした政策からは、まったく恩恵が感じられないどころか、むしろ「自分たちが納めた税金が無駄遣いされている」という感覚を与えるものでしなかった。
こうした疎外感を抱いた「新住民」が世代を重ねるにつれて、「サイレント・マジョリティ」と呼ばれる、地域政治とコミュニティから切り離されたサラリーマン世帯層をなしていったと考えられる。マスメディアとインターネットを通じてしか政治に触れることのできない彼らは「現実の複雑な利害対立に配慮した中間的政策よりも、理念的で極端な政策」、すなわち「劇場型」の政治家を選好する傾向がある。

「自治体は企業」

維新は、この層をターゲットにしたのである。維新が掲げる「改革」の正体を理解するためのカギとなるのが、1980年代後半から米国で隆盛となった「新しい公共経営 New Public Management」(NPM)という政策理論である。それは自治体を企業、首長を社長、市民を株主になぞらえる新自由主義の政策思想だ。自治体の目的は、住民から徴収した税金を使って効率の良いサービスを実現し、利益を還元することになる。そのために、民営化を活用した徹底した合理化、トップダウンによる迅速な意思決定、徹底的な業績主義、公務員の削減を推し進める。NPMでは議会は必要とされない。また組合、市民団体、自治会といった中間団体の利益は無視され、相手にされるのは「個人」だけである。
こうしたNPMを採用しているのは、おおむね高齢化による住民の減少や産業の衰退によって税収が縮小している自治体である。しかし、こうした自治体が行政の効率化を求めてNPMを採用すると、行政サービスの低下を招き、そのことによって住民の地域離れを引き起こしてしまう。つまりNPMの実行がさらなる住民減少と税収縮小をもたらし、よりいっそうの行政効率化が必要となり、それがまた住民減少・税収縮小へ、という地域衰退の悪循環に陥ってしまうのである。

持続可能な地域へ

村澤さんは、NPMを政策理論とする維新政治に対抗するためには、人や文化を含めた地域の持続可能性を具体的に実践していくことが必要だという。それは地域内での雇用や地産地消の促進であり、地域内メディアを通じたさまざまな地域の課題や生活情報を共有し、次世代の育成を地域で共に考えていくことだという。こうした取り組みが具体化していけば、「維新を支持しようという人は出てこなくなる」のだ。    (香月泰)