
6月18日にPLP会館でおこなわれた的場昭弘氏の講演会に参加しました。マルクス経済学の研究者で、1980年代には東ヨーロッパでの留学経験もある方です。講演内容は多岐にわたりましたが、講演の中で語られていた言葉を引用し、感想を記します。
ロシア潰しの戦争
「ウクライナ戦争は不幸なことなんです。ウクライナ人は誰のために戦わされているのか? イギリスとアメリカがロシアをつぶすために、スラブ人同士の内戦になるように仕向けられた戦争なんです」
1991年のソ連の崩壊からのNATOの拡大、14年のウクライナでの政変、そして22年2月のロシアの侵攻までの一連の流れは、英米が主導してロシアをつぶしていこうとする目的のためにひき起こされたものであり、影の主役としての英米の存在を述べられていました。講演の中では、この内容を詳しく論じることはされていませんでしたが、最近の動きとして、ウクライナ戦争に対して、中国の仲裁、アフリカ諸国の仲裁の動きが世界的ニュースになっていることを述べられ、これまでの紛争と次元の違うことが起こっていることを強調されていました。英米(NATO)は戦争の一方の当事者ですから、たとえ建前としても「停戦の仲裁」という立場をとることができません。私はあらためて「即時停戦」の声が必要と思いました。
ヨーロッパ的観念
「私たちが学んできた『世界史』。この『世界史』という概念は、ヨーロッパ人がつくったもので、ヨーロッパが文明の先進国であり、普遍的存在である、世界の歴史はすべてこの普遍的な歴史をたどるということ、ヨーロッパのような民主主義、ヨーロッパのような人権の在り方を踏襲すべきという観念があって、それを受け入れない国にはヨーロッパ人が徹底して教育していくべきという考え方、これが植民地主義なんです」
的場氏には、『「19世紀」でわかる世界史講義』(日本実業出版社2022年7月)という著作があり、私も現在読んでいますが、19世紀の英米を軸とした世界政治に直面した明治維新の日本が、「神経症」的な反応をとらざるをえなかった姿をそこでは論じられています。福沢諭吉に代表されるような「脱亜入欧」を強迫的観念として受け入れ、アジアから孤立する在り方を選択した日本。日本は形式的には独立はしましたが、結局イギリスの帝国主義的な政策のもとで、東アジアにおいて「番犬」的な存在としてイギリス(およびアメリカ)的覇権の枠の中で動いてきました。現代の日本が、再び台湾問題などを契機に中国に対抗させられようとしている情況に、的場氏は強く注意を喚起されました。日本はこの150年の歴史を真摯にとらえ返し、反省し、未来に向かって変化していかなければならないと思います。
G7の存在感の希薄化
グローバルサウスとよばれる存在が世界的にクローズアップされています。それは、これまで英米・西欧および日本等のG7によって統制されてきた世界から、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ、そしてサウジアラビアやイラン等の国々が本当の意味で協力し合いながら世界経済の仕組みをつくっていくという方向に動き出しています。特にアメリカによる基軸通貨ドルの維持が困難になっている中で、アメリカを軸とした一極支配が完全に崩壊し、世界が多極化していくことは必然ではないかと感じられる話でした。
私たちは、これまでの価値観が崩れようとしている現代社会にあって、きちんと現実と事実に向き合っていくことが求められています。
(秋田勝)
