20代の頃の白井順さん(提供:高橋順一さん)

在野でマルクス経済学の研究を続けてきた白井順さんが昨年8月亡くなった。享年70。白井さんが生前残した唯一の著書が『思想のデスマッチ』(エスエル出版会/鹿砦社1985年、写真左)。その著者略歴には「白井順 1952年生。理論経済学専攻。法政大学大学院(修士)終了後、高橋順一(哲学家)、布川充男(装幀家)、坂本龍一(音楽家)などと共に『廣松渉研究会』に参加」とある。「坂本龍一」とは今年3月に亡くなった世界的音楽家その人。ただし彼は音楽活動が多忙となり、この研究会には1回も参加しなかったという。

それはさておき、有志によって白井さんを偲ぶ会が7月14日、都内で開かれた。「廣松渉研究会」の高橋順一さんや鹿砦社の松岡利康さんも出席され、白井さんの思い出などを語り明かした。
私と白井さんと出会ったのは2018年12月に専修大学で行われた討論集会だった。
その後は、共産主義運動年誌を通じて、白井さんとお付き合いするようになったが、私が文章を載せたり、討論集会で報告する度に白井さんから励ましをいただいた。
白井さんは共産主義運動年誌19号掲載の論文で、「あらかじめ、天上でできあがっているマルクス体系ならば、それをおろしてくる者としての『僧侶』が特権的地位をえるのもあたりまえだったのだろう。1970年代、同世代でも、党派の『学問』体系によって学習した者たちは、とてつもなく古典的な・できあがっている・『ソ連邦教科書』的な・マルクス体系をマル覚えしていただけのようであった」と述べているが、私は長らく、白井さんがいうところの「旧き善きスッキリ、ハッキリした世界」の住民だった。そして、その世界の住民が見下している「チャラチャラした現代世界」の論理そのものを正当に解読することによって「不安定性の時代」を乗り越えることができるという白井さんの言葉にいたく共感した。だから白井さんは私が「チャラチャラした現代世界」を読み解こうと悪戦苦闘しているのを見て励ましてくれたのだと思う。
白井さんとはもっと語り合いたかった。残念でならない。(茂木 康)