「歴史探偵」の作家、半藤一利(かずとし)さんの本から孫引きだが、こんな俳句があるそうだ。「八月や六日九日十五日」
昭和史や戦争体験を少しでも学んだことがある私たちには、その日付がすぐにピンとくる。しかし、若い人たちは「何ですか、これは」と怪訝な顔をするという。六日ヒロシマ、九日ナガサキの原爆投下、十五日ポツダム宣言受諾、戦争の果ての天皇の放送…いずれも私たちが忘れてはならない、あの暑い夏の出来事である。
そんな折、NHKのクローズアップ現代という番組で「はだしのゲンは、なぜ消えた?」をみた。『はだしのゲン』は、この新聞でもとりあげられていた。漫画家の中沢啓治さんが実体験に基づいて描いた作品だ。
これまで広島市は平和教育を教育の原点とし、最重要課題として取り上げ実践してきた。10年ほど前に作られた副教材「ひろしま平和ノート」のなかに、『はだしのゲン』が入っていた。背景には広島市教育委員会が行った調査で、原爆投下の年や日時を正確に答えられる小学生が全体の33%にとどまるなど、被爆に関する意識が子どもたちのあいだで希薄化しているからだという。
その『はだしのゲン』が教育行政の手によって、「いまの子どもの生活実態に合わない」という理由で副教材から消されてしまった。ゲンが浪曲をまねて唄い小銭を稼ぐ姿や、池の鯉を盗む場面を現代の児童がイメージしづらいというのが理由だという。
世界にはいまも、街角で歌をうたって物乞いをする子どもたちがたくさんいる。生きるために盗みをする子どももいる。日本でも「子どもの貧困」は深刻化している。広島にだって「子ども食堂」は開かれている。広島市教育委員会には、「こどもの貧困」は見えないのだろうか。
子どもたちの豊かな感受性と想像力を育てることが、平和を作る力になると信じる。 (石塚 健)