
第二次大戦後、各国で進められた核兵器の開発や原発の稼働によって、核廃棄物を含む大量の廃棄物が海に棄てられていた。こうした海の汚染を防止するため、1972年に海洋投棄を規制するロンドン条約が採択された。しかし、この条約で規制された核廃棄物は、高レベルのものに限定されていたため、低レベルの核廃棄物の海洋投棄は続けられていた。
これに対して、南太平洋フォーラム(現太平洋諸島フォーラム)加盟国8カ国は85年、南太平洋における一切の核爆発、核廃棄物の投棄を禁じるラロトンガ条約を締結した。93年にはロンドン条約の改定が行われ、すべての放射性廃棄物の、船舶などからの廃棄が禁止された。96年にも大きな変更が加えられ、特別に認められたもの以外は、どのようなものであれ投棄を禁止するロンドン議定書が採択された。日本は07年に締結している。
日本政府と東京電力が8月中にも強行しようとしている、福島第一原発事故で発生した核汚染水の海洋投棄計画は、ロンドン条約と96年議定書に違反し、半世紀以上におよぶ海洋汚染防止に向けた国際的な流れに逆行するものである。東電は、「海底トンネルによる海洋放出」は「陸上からの排出」と見なされるため、「船舶による海上からの投棄を禁止したロンドン条約には違反していない」と主張している。これを法律用語では「脱法行為」という。このような詭弁を弄するために、東電は400億円以上の巨費を投じて海底トンネルを建設したのだ。その工事費は利用者の電気料金に上乗せされる。
意図的な核廃棄物の投棄は、ロシア海軍が93年にウラジオストク沖の公海に投棄したのが最後だった。この時投棄されたのは液体・個体の核廃棄物、約900トンだった。
今回、福島第一原発から核汚染水は140万トンだ。それを40年かけて海に垂れ流し続ける。これまで経験したことがない桁外れの規模で核廃棄物の海洋投棄が行われようとしているのだ。
「ALPS処理水」に含まれるのは、除去できないトリチウムだけではない。毒性が強く半減期が30年近くになるストロンチウム90やセシウム137なども残留している。いくら水で薄めても、放射性物質が消滅するわけではない。また海の中では食物連鎖によって放射性物質が濃縮される(生物濃縮)。その検証もまったく不十分である。特にストロンチウム90は体内に取り込まれると排出されにくく、その生物学的半減期は50年にもなる。「ALPS処理水は安全」に科学的根拠はない。
このままでは、国際的な海洋汚染防止の枠組みは骨抜きにされ、深刻な地球環境破壊を招きかねない。核汚染水の海洋投棄は中止すべきである。
