
『魂魄(こんぱく)の道』は、5つの短編小説からなっている。沖縄戦の実相と沖縄から出征し、中国での侵略戦争の体験が描かれている。戦争体験者にとって決して忘れることができないことがあるように、戦争を知らない世代にとっては知らなければならないことがある。
「神ウナギ」に描かれるのは、沖縄戦が始まったある集落でのこと。艦砲射撃、米軍上陸により住民は、ガマ・防空壕に避難する。米軍の激しい掃討戦のなか、ハワイ帰りの主人公の父は米軍の呼びかけに応じ住民を説得して投降する。集落は、昼間は米軍が支配するが、夜は日本兵が出没し食料などを住民から奪っていくような状態が続く。
主人公は、日本兵が集落に来たとき、米軍から自分たちを守ってくれると信じ、共に米軍と戦うと決意する。しかし、圧倒的な力量の差があるなか、それが幻想だと自覚する。そうしたとき、悲劇が起こる。彼の父親は、住民に投降を呼びかけたことによってスパイとされ、日本兵の隊長によって斬殺される。
月日が流れ、主人公は本土への出稼ぎに。居酒屋で偶然に、父を斬殺した隊長と遭遇する。その居酒屋は、隊長の行きつけの店だ。彼は葛藤しながら、一言謝ってほしいという思いを持って隊長に接する。隊長は、「君の父親は米軍のスパイだった。戦場で敵軍に協力するものを許していたら、私の部下はどうなると思うか。全滅に追い込まれるんだ。敵に協力する者、スパイは処断しなければならない。軍は住民を守るためのものではない。国を守るものだ。あの頃、みんな国を守るために必死だった」と居直る。
そして別の日、隊長の娘が言う。「あなたは沖縄の人らしいですけど、父は戦争中、沖縄で戦って、沖縄県民のために尽くしたんです。それがどうして、あなたに変な言いがかりをつけられないといけないのですか」と。
私は、あらためてアジア・太平洋戦争の歴史について、学ばなければならないと感じた。戦争の責任、加害責任について、「一度目は知らなかった」「仕方なかった」かも知れないが、二度目は許されない。
「魂魄の道」の、悪い世の中になったな。(やなゆむなかになていや)。「露」の、我や、露なめてぃ生きの延びたよ。「神ウナギ」では、忘れてぃやならんど。「闘魚」の、私たちがちゃんと覚えておくからね。「斥候」の、あんな戦争がなければ。…という言葉を受け止めたい。ぜひ、読んでほしい。
今、「台湾有事」「敵基地攻撃能力の保有」が言われる中、琉球弧の島々に自衛隊のミサイル基地が建設されている。沖縄では7月25日、「沖縄を再び戦場にさせない県民の会」が発足した。本土でも連帯し連動し戦争に反対する行動を起こしていきたい。(高崎)
