大阪市教育委員会が入る大阪市役所

コロナ禍の2021年5月、松井一郎大阪市長(当時)が突然発表した「明日から一斉オンライン授業」に、「教育現場の実情を完全に無視している」と、市長と教育長に提言書をだした小学校の校長がいた。〝ガッツせんべい〟こと久保敬さんだ。「豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」と題した提言書は当時、大きな話題となったが、大阪市教育委員会は久保さんを「文書訓告」とした。
久保さんは友人から「あの提言書は久保ちゃんの卒業論文や」と言われて、「じゃあ、文書訓告は合格通知や」と笑い飛ばしていた。しかしあるドイツの教育学者から、「文書訓告にあなたは全く動じていませんが、若い世代のためにも放置してはならない問題だと思います」というメッセージをもらい、「やっぱり自分だけの問題ではない」と思い直して処分の取り消しを求めた。
ところが市教委は「文書訓告は処分ではなく行政処置だから」と門前払いにした。このまま引っ込むわけにいかないと大阪弁護士会に人権侵害救済の申し立てを行った。その「中間報告」となる集会が10月9日、大阪市内で開かれた。
集会では久保さんが「なんで文書訓告やねん」と書かれたタスキを掛けて登壇。腹話術のQちゃん人形とともに、退職後も楽しく活躍していることを語った。弁護士会への救済申し立てとともに誕生した「ガッツせんべい応援団」のメンバーは、文書開示請求によって、大森不二雄・大阪市特別顧問が教育委員会事務局の職員に直接指示ともとれるメールを頻繁に出していたことがわかった。特に久保提言書が出された後は、反論書の作成を教育委員会に指示し、その案文の修正を三度にわたり迫っていた。特別顧問の立場で大阪市の教育行政に介入していたのである。
大阪公立大准教授の辻野けんまさんは、「久保さんの処分に対していろんな団体が、様々な論拠をあげて処分撤回を要請する声をあげた。そこに大阪の草の根民主主義ともいえる市民運動が根付いていることを感じた。
こうした民意に対する市教委の回答は『関係法令等に基づき慎重に検討した結果、文書訓告とするのが妥当であると判断した』というもので誠意がない。こうした対応が教育行政への信用を失墜させているのではないか」と話した。(佐野)