
9月30日、高槻市で開かれた講演会「ギャンブル依存症とIRカジノ」に参加した。講師は大阪いちょうの会(大阪ギャンブル等依存症対策推進会議)のにいがわ新川眞一さん。司法書士として、依存症者への相談や債務整理などに実践的に関わってきた人である。
スマホ、パソコンで
パチンコは世界に冠たる日本のギャンブルとして売り上げを誇ってきたが、今や半減(2021年度で14兆6000億円)。各地でパチンコ店が潰れているが、日本人がギャンブルを卒業したわけでなく、他のギャンブルに移行しただけだ。競馬やオートレースなどは2018年以降に急激に売り上げが伸びているが、一方、競技場への集客数はここ数年でガタンと減少している。どういうことかというと、わざわざ競技場まで行かずとも、スマホやパソコンを使ってオンラインで賭けられるのが真相らしい。「賭博場は今や各人のスマホの中にある」。
サラ金とも連携
スマホはオンラインで銀行と繋がり、さらに金が底をついてもオンラインでサラ金(消費者金融)やクレジットカード会社とも繋がっており、簡単に借金ができる。もっと恐ろしいことに、サラ金でお金を借りられない人を対象に「後払いメルペイ」というシステムもある。こうなればほとんどヤミ金に近いのではないか。
こういったことが駅頭や繁華街にデカデカと宣伝され、ポイント制で「その気にさせる」術も使っている。最近では有名俳優を使って派手にくり返しテレビで宣伝しているのを見て驚いた。
オンラインギャンブルは、いつでもどこでも仕事中でも、簡単に借金が可能で、初心者も気軽に参加でき、スマホ依存とゲーム依存のクロスで急速にのめりこむ。これでは依存症にまっしぐらである。この先に何が待っているのか! 「人生の破綻」しかない。
依存症の現実
最初はパチンコをたしなむ程度で仕事も貯蓄もあった青年が、2018年頃からオンラインギャンブルにのめり込み、借金が膨らみ破産申し立てとなった例。破産以降もギャンブル依存から立ち直れず、ヤミ金で生活をしのいでいる例。苦労して建てた家も借金返済で売却するはめに。
「どうして途中でやめないのだ」「もう少し理性を働かせればいいのに」と誰でも思うが、ギャンブル依存症は、「意志の弱さ」が原因ではない。ギャンブルを繰り返すことで異常をきたし、やめたくてもやめられない「脳の病気」が原因である。意思決定にかかわる「前頭前野」と、快感を得ると激しく反応する「報酬系」に異常が起こる。ギャンブル以外については脳が反応しなくなる。そしてギャンブルへの執着は増加し、のめり込み、借金をくり返し、それが生活の中心となり、仕事や生活や家庭の崩壊、うつ病の発症、自殺リスクの高まりとなる。
被害者の救済
依存症当事者や家族はギャンブル産業の被害者である。野放しにしてきた国の犠牲者でもある。依存症には特効薬はない。しかし完治はしないが回復は可能。常に再発の危険を抱えながら、一生かけて闘病しなければならない。依存症当事者は自分の非を認めず、「次は勝って借金を返せる」と本気で思っている。一般の人には理解しがたいが、それも「依存症の病状」なのである。家族は借金の取り立てにおびえ、当事者のウソにだまされ、脅し(時に暴力も)に怯える被害者であることが多い。
医療の関与、時に入院・入所、法律家による債務整理や被害拡大防止の援助、また同じく依存症に苦しんでいる人たちや自助グループとのミーティング。認知行動療法。「大阪いちょうの会」は保健所や医療機関と連携しながらこのような活動を続けている。
世界の趨勢に
オンラインギャンブルの普及はこの様な事態を加速する。すでにヨーロッパではオンラインギャンブルの方がラウンド(競技場)ギャンブルよりも優勢となり、それが世界の趨勢と言われる。
昨年4月、山口県で起こったコロナ給付金4000万円強の誤支給事故(誤送金事件)がニュースを騒がせた。誤送金された男性はほぼ全額を「海外のオンラインカジノ」に一挙につぎこんで使い果たした。本来はこの男性に賭博罪が成立するが、電子計算機使用詐欺罪の立件で済まされた。また男性が利用していたカジノ業者は、本来は賭博場開帳図利罪で処罰されるはずが、全額返金するという異例の対応で捜査の対象外となった。カジノ業者にしてみれば本格的な日本上陸を前にして、社会問題化するのはヤバイと事件を早々に終息させたのではないか。
夢洲カジノでは
9月28日、大阪府・市と大阪IR株式会社(米カジノ会社MGMリゾーツ、オリックス等)は実施協定(契約)を締結した。この契約は大阪IR株式会社が「事業前提条件が整っていない」と判断した場合は違約金なしで解除できる。随分足元を見られた契約ではないか。
MGM社は大型ホテルやショッピングモール、劇場など世界中の様々なエンタテインメント施設を展開する米国企業である。MGM社は、世界中でオンラインカジノを運営するレオベガス社を買収して子会社化し、オンラインカジノの世界市場への参入を目指している。この度、大阪府・市との契約も、このレオベガス社が中心となって進められた。
バクチとか賭博とか、ムサイ中年男性が耳に赤鉛筆を挟んでレース場で血相を変えているイメージしかなかった。今回の講演でそれが一挙に吹き飛んだ。
男も女も、老いも若きも、いつでもどこでも、レジャーとしてスマホ片手にギャンブルができる時代が来たようだ。そして依存症という完治しない病気が拡大していくと思うと恐ろしい。押し寄せるグローバルカジノ資本の前に民衆を差し出すわけにはいかない。夢洲カジノにさらにもう一歩するどい目を向けて、維新ともども彼らの野望を白日の下に暴いていこう。(当間弓子)
