
「どこの国でも原発からトリチウムを排出している。日本だけではない」
政府が汚染水海洋投棄を合理化するために持ち出した話だが、これはまったくの詭弁だ。福島第一原発で増え続けている放射能汚染水は、原発の通常運転で排出されるトリチウム水とはまったく違う。通常運転のトリチウム水は主に冷却中の重水素やホウ酸と中性子が反応して発生したもの。しかし、今問題になっている汚染水は原発事故で溶け落ちた核燃料のデブリに直接さらされた地下水である。多核種除去設備(ALPS)で処理してもセシウム137やセシウム135、ストロンチウム90、ヨウ素131やヨウ素129などおよそ60種以上の放射性物質を含有している。また「トリチウムは無害」と国は発表しているが、動物実験では発がん性や胎児への影響が確認されている。
2018年には、福島第一原発の敷地内の汚染水タンクから放出基準の約2万倍の放射性物質が検出されていた。東電がホームページで公表している測定値を調べた住民や報道が指摘するまで、東電はこの重大な事実について沈黙していた。あまりにも無責任である。
政府や東電は、「水で薄めれば無害」と盛んに宣伝しているが、こんな子どもだましが通用すると思っているのか。どれだけ水で薄めようと、放射性物質の絶対量は変わらない。投棄された放射性物質は、海洋中の食物連鎖によって濃縮され、行き着く先は魚介類を食べる私たちの体内だ。
IAEAが今年7月に発表した包括報告書で、「ALPS処理水の安全性」の科学的根拠を示したかのように宣伝されているが、この報告書を依頼したのは「海洋投棄」を決定した張本人の日本政府だ。しかもIAEAは原発を推進するための組織であって、中立的な機関ではない。そのIAEAでさえ、世界中の批判を恐れて「海洋放出を推奨、支持するものではない」と言葉を濁しているのだ。(想田ひろこ)
