中国の日本産海産物の輸入禁止。これによって日本の漁業関係者たちはどれだけ困っているだろうか。中国を非難する世論が日本中に拡大しているが、この問題を考える時に、まず押さえておかなければならないのは、放射能汚染水の海洋投棄に至る歴史的な経緯である。2011年の福島第一原発の事故は、以前から地震津波の危険性を指摘されながら、それを無視してきた東電のずさんな管理体制に大きな原因があった。それは地震国であるにもかかわらず、原発の増設を進めてきた日本政府の原子力政策が生み出した歪みそのものであった。中国の過敏な反応には政治的な思惑もあると思うが、まずもって日本側に問題があるのは明白だ。
 中国の禁輸発表に対して「全く科学的根拠なしに一方的な対応」(自民党・小野寺元防衛相)、「全く冷静さを欠いた措置」(立憲民主党・泉代表)、「非科学的な嫌がらせ」(日本維新の会・音喜多政調会長)など、与野党から中国を非難する声が一成に上がった。それを言うなら、「汚染水」という言葉を使った農水大臣に対して、寄ってたかって謝罪・撤回させた日本政府の対応の方こそ、よほど非科学的ではないか。
 中国の禁輸措置は海産物だけにとどまるのだろうか。現在の日本の食糧は、なんと6割以上を外国からの輸入に依存しているが、こうした状況になっているのは。仕方のないことではない。ここには自国の農業を崩壊に導いているとしか思えない日本政府の戦後一貫した政策があるのだ。日本の自営農(基幹的農業従事者)はこの10年で3割の人々が減少し、そして東京都の面積を上回る規模の農地が失われた。
(想田ひろこ)