
[さくらだ・てるお]
1958年大阪市生まれ。博士(経済学・京都大)。93年より現職。「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表。主な著書に『銀行ディスクロージャー』(1995年、法律文化社)、『カジノ・万博で大阪が壊れる―維新による経済・生活大破壊』(2022年、あけび書房、共著)など。
大阪維新の会の目玉政策、大阪・関西万博と夢洲カジノ。ところが、建設予定地の夢洲は土壌汚染・地盤沈下問題や災害対策の不備が指摘され、万博の目玉となる海外パビリオン(タイプA)の着工は10月時点でゼロ、建設許可取得もわずか3カ国。また夢洲カジノでは業者に一方的に有利な事業協定に疑問の声が上がっています。維新はこの二つが大阪経済再生の「起爆剤」となると言うが、本当にそうなのか。「カジノ・万博で大阪は壊れる」と警鐘を鳴らす阪南大学教授の桜田照雄さんに話を聞きました。〔インタビューは、9月14日、阪南大学あべのハルカスキャンパスで行いました。〕

――大阪万博や夢洲カジノが「大阪経済の起爆剤になる」という大阪維新の会などの主張をどのようにお考えでしょうか。
それについては、この問題をどのような視点で考えるのかを整理しなければなりません。
一つめは、万博やカジノを「起爆剤にしたい」という人たちの視点から見るとどうなるのか。二つめには、そもそも「経済の起爆剤」とはなんなのか。三つめは、万博やカジノが大阪経済に対してどのようなインパクトを与えるのか、です。
「インパクトを与える」という場合には、万博やカジノで動かされるお金の動きと、大阪経済全体のお金の動きがうまく調和していることが前提となります。
ですから、起爆剤になるのかどうかを判断するためには、万博が生みだすお金の動きとはどういうものなのかを考えなければなりません。
産業連関表による分析
2005年に開催された愛知万博(愛・地球博)では、産業連関表という経済分析のツールを使ってその経済効果が推計されました。
――産業連関表とはどのようなものですか。
生産部門から消費部門にどの産業(業種)を通じてお金が流れているかを表したものです。モノを作り、モノを消費すれば、当然売り買いの関係が成立します。生産といってもいろんな産業分野があります。それぞれの産業に属するそれぞれの会社の売上高は税金の統計などから分かります。法人税の徴収や事業統計の集計は、会社が申告した売上高に基づいているわけですから。そうした売上高の一覧とさまざまな消費統計とを突き合わせながら、どの部門からどの部門にいくらお金が流れたのかという統計が、長年にわたって作られてきました。
こうした産業連関表が、「経済の起爆剤になるのか」とか、「経済の中で万博やカジノがどういう意味を持つのか」を考える土台になります。そのデータは、集め方や処理の仕方が法律に定められた正確な統計です。とはいえ産業連関表のデータは過去の事後的なものですから、それを将来の経済予測に役立てることができるのかという問題があります。「過去に起こったことが将来もつづく保証があるのか」と言い出すと、「産業連関表なんてあてにならない」という話になります。
一般的に産業連関表に基づく予測というのは、「万博あるいはカジノでどのくらいのお金を使うのか?」というところから始まります。例えばカジノで使うお金の額、これを最終的な投入係数といいますが、これを決めて産業連関表の分析ソフトに流し込めば、あとは自動的にデータが出てきます。
予算の「財布」
が7つも
「どのくらいのお金を使うのか?」とは、「予算の規模」ということになります。万博の場合、これを特定するのが難しい。たとえば万博の運営費の1850億円については会場運営費として出てきます。ところが、夢洲は何もないところですからインフラ整備が必要です。そのお金の出所として、大きく言うと国と大阪府と大阪市という3つの財布があるのです。国のお金は、一般会計から出てくるお金と財政投融資計画から出てくるお金があります。
夢洲の場合では空港整備特別会計になります。関西空港、大阪空港(伊丹)、神戸空港の3つの空港運営は関西エアポートに統合されていますが、そういう空港に関連する整備基金が夢洲のインフラにも使えるのです。さらに大阪市レベルでは、一般会計と港営事業会計という財布があります。そうするとぱっと思いつくだけで財布が7つもあるのです。
万博の港営事業会計の担当者はこれら7つの財布の帳尻合わせをしながら会計の決算を組んでいくのです。だからどうなっているのかは、担当者でなければ分からないでしょう。その担当者が変わればどうなるか。前後と当期と3期分は分かったとしても十数年間分となるとまず分からない。
夢洲インフラで1兆円
夢洲では護岸工事が1985年から始まっていますから、それから考えても40年近くの長きにわたってお金をつぎこんでいます。港湾局が港営事業会計において報告した数字が2870億円です。ここに一般会計は入っていません。私が面積比で計算したところ大体3500億円になります。
ところが当時の松井一郎大阪市長は6000億円をつぎこんだと言いました。この6000億円という数字は当然、市の担当者から出てきたのでしょう。6000億円の内、港営事業会計からのお金は借金です。また一般会計からのお金はみなさんの税金です。借金と税金を合わせて公金という言い方をしますが、今後つぎこむお金を計算すると4000億円くらいなりますから、合わせて1兆円の公金をつぎこむことになるわけです。
いったい夢洲にいくらつぎこんできたのか。また舞洲の整備の方はどうか。誰にでも納得できる数字が出てくるのかといえば、まあ無理でしょう。
べらぼうに高い単価
これはあまり触れられてない問題ですが、統合型リゾート施設(IR)の平方メートル当たりの建設単価がべらぼうに高いのです。この問題をどう見るのか。これも見方が二つに分かれています。
ひとつは、夢洲の地盤などいろいろな問題があるから建設単価が高くなるという見方です。もう一つは、公共事業における利益の配分の問題です。本来30億円で済むところを80億円出すといった話です。そういう話になってくると確かめようがない。それを唯一確かめることができるのは議会です。議員にはさまざまな調査権があるのですが、現状、今の議会にそういう機能を期待することはできません。 (つづく)
