中部国際空港(セントレア)の全景。愛知万博(2005年)で経済効果の恩恵が最も大きかったのは空港建設とそのアクセス関連工事に携わったゼネコンだった。

産業連関表を使って推計した愛知万博の経済効果で、一番大きかったのは中部国際空港(セントレア)の建設工事や、空港と市内を結ぶ、さまざまなアクセス道路の建設工事などの建設関連投資でした。2番目は交通費。これは参加者が移動のために使ったお金です。それから県外からの参加者が宿泊などに使ったサービス関係のお金です。愛知万博のデータはインターネットで確認ができます。
これを大阪万博に当てはめると、経済効果の恩恵をこうむるのは結局ゼネコンなんですね。夢洲につぎこんだ6000億円は明らかに建設工事です。夢洲は何もないところですから、土木建設工事しかお金を使うところはありません。
「そんなハコモノ行政でいいのか」という話になるけれど、残念ながら日本の地方都市のほとんどは、今や土木建設工事で飯を食っている状態です。地方がなぜ衰退してきたのかといえば、もちろん地域経済そのものの要因もありますが、公共事業の削減で地域にお金が落ちなくなってきたのが最大の原因です。各都道府県の産業構造を見ると土木建設・不動産関係の占める割合が相当大きいのです。

大阪は経済の中心?

それはさておき、大阪経済の話をしましょう。副首都構想などに出て来ますが、「東京と大阪が経済の中心地」という考え方についてです。大阪が経済の中心地だったのは、実は戦前の満州事変(1931年)のころまでなのです。
戦前の日本経済のピークがだいたい昭和10年から11年(1935年~36年)ころです。1937年に日中戦争が勃発して、38年に国家総動員法が制定されます。満州事変から日中戦争にかけて、日本は兵器を大増産しました。その当時の日本の国家予算の半分が軍事費に向けられています。経済が軍事化するなかで重化学工業が興り、日本経済の中心は大阪から東京へ移行していったのです。

戦前の『新大阪論』

それを受けた大阪経済の重鎮はどういうことを考えたか。それを著したのが昭和17年(1942年)に出版された菅野和太郎の『新大阪論』という本です。戦前、菅野は今の大阪経済大学の教授で、戦後は自民党の国会議員で大阪政界の有力者でした。1970年の大阪万博では日本万国博覧会名誉副会長に就任し、関西財界の重鎮に納まっています。
『新大阪論』は「大阪の経済はどうあるべきか」を論じました。出版されたのが1942年ですから太平洋戦争の影響はそんなになかったと思います。そこで彼は、「大阪経済の進むべき道は、従来の繊維産業を核として、繊維関連産業をさまざまな形で勃興させていくことだ」と記しています。これはきわめてまっとうな考え方です。東京を追いかけて、重化学工業化を図るのではなく、大阪の持っている強みを活用した新産業を作りだしていこうという考えなのです。

関西五綿、三和銀行

当然、アジア貿易が念頭にあっただろうし、何と言っても繊維産業の中心は関西五綿(伊藤忠、丸紅、日本綿花=現・双日、東洋綿花=現・豊田通商、江商=現・兼松)といわれた商社です。これらは日本経済で圧倒的な地位を誇っていました。今なお世界の繊維産業をひっぱっているのは伊藤忠ですから。上海ブランドを立ちあげたのは伊藤忠です。
それともう一つは三和銀行です。余談ですが、日本の銀行が世界のどこの国とも等しくお付き合いするようになるのは、90年代がおわってからでしょう。それまでは、台湾で何か商売をしたければ第一勧銀にお世話になる以外ない。中国の浙江省や江蘇省で商売しようと思ったら三和銀行のお世話になるしかない。タイだったら三井銀行と、銀行の海外でのテリトリーが国ごとにはっきりしていました。それは戦前の日本が経済成長するなかでさまざまに形成されてきた関係を表しています。それが崩れてきたのは、金融の国際化といわれた21世紀になってからの話です。
そういうこともあって商社がある、メーカーがある、銀行がある、つまり取引ネットワークがあるということでいうと、糸ヘンに関しては大阪の地位は圧倒的でした。ところが「沖縄と繊維の交換」といわれた佐藤内閣時の日米繊維交渉(1969年~71年)のなかで、糸ヘンがほぼ壊滅的になり、そのあとの大阪経済の迷走ぶりは推して知るべしです。
大阪の産業連関表を分析すると、堺・泉北のコンビナートの売り上げが反映されるので、石油化学産業であるとか、それと関連して医薬品産業にコンビナートの実績が反映されるのですが、そういうファクターを除いて大阪経済を全体としてみてみると、やはり卸小売業が柱です。

大阪経済には
    マッチしない

ですから、万博をやったからとか、カジノを作ったからということでは、大阪の産業連関構造にマッチしない。つまり起爆剤になりようがない。唯一、起爆剤になりうるのはゼネコン、建設・不動産業です。(つづく)