ゼネコンへの利益供与

「大阪経済はうまくいってない」という話になりますが、実は2008年あたりから統計を取ってみると、不動産業と建設業では、儲かっているところは利益が1・5倍とか1・7倍に成長しています。儲けがしら頭はタワーマンションの建設・販売でしょう。
建設・不動産業には、維新の「大阪の成長を止めるな」というスローガンがあてはまります。「俺たちの力が弱くなれば、困るのはお前たちだぞ」という脅しが、建設・不動産には通用する。これが今の大阪経済です。万博やカジノは、ゼネコンや建設・不動産業界、観光・飲食業界にとっては取引高が増えるわけだから「起爆剤」どころではありません。利益供与そのものです。
それでは「他の産業はどうなの?」というと、ほったらかしなんです。万博がらみで必死になっているのが、医薬品産業や医療産業です。阪大医学部があるとか、大阪公立大の医学部があるとか、道修町(大阪市中央区)には製薬産業が集積しているとか。地域に集積している産業に投資し、活性化させると地域の経済全体に効果があるというのです。

「地域の集積産業」

「トリクルダウン」という言葉を聞いたことはありませんか? 大企業が儲かれば、その儲けが中小企業にも流れ落ちてくるという考えです。地域経済論で90年代後半から「地域の集積産業」に投資して、地域経済を活性化させるという考えが広まります。
産業クラスターという言葉が頻繁に登場するようになったのも90年代から00年代にかけてです。ちょうどそれは日本経済の中で、小泉改革という形で新自由主義的なやり方が顕著になってくるのと重なっています。

プライバタイゼーション

お互いを「私」化することをプライバタイゼーションといいますが、これが新自由主義の規制緩和と結びつきます。世の中を徹底して「私」化していけば、連帯が根こそぎ壊されてしまいますから、社会を変革する源である信頼関係が形成されません。
今の時代は「公」と「私」の垣根が極めてあいまいになっています。一方で「公」を「私」化する動きと、「私」を「公」にする動きが同時に起きています。
2015年9月、菅義偉官房長官(当時)は、翁長雄志沖縄県知事(当時)とのやりとりで、「戦後生まれなので、沖縄の歴史はなかなか分からない。日米合意の『辺野古が唯一』というのが私の全てです」と発言しました。こんな言葉が官房長官の口からでたのです。
〝ちょっと待って。菅さん、それはあなた個人の話でしょ。でも、私と話しているあなたは、官房長官という「公」の立場の人なんですよ。「公」の立場の人が「私」を出していいんですか?〟ということなのです。
なかなか大切な問題として受け止められていませんが、「公」と「私」の世界の垣根が非常にあいまいになってくると、連帯や信頼を壊され、政治的なメッセージは相手に届かないようになってくる。「やっぱり俺のことは俺にしかわからん。なんでお前に分かるんや」という、これはよくありますよね。

連帯や信頼の破壊

80年代半ば頃からですかね、子どもたちが「私のことは分からんのに先生、偉そうに言わんといてよ」とか言い始めたのは。〝私と違う存在であるあなたが、私のことを理解できるはずがない〟という考え方がメジャーになってきた。
00年に入ると、大学の先生が「上から目線や」とか言われるようになります。子どもたちが知性とか知というものを尊重できなくなっています。尊重できるのは「経験値」なんですね。〝「知識」は抽象的な文字から得るわけではない。経験からしかもたらされない〟という考え方が、70年代後半以降の学校教育の基本になっています。先生に対して子どもたちが「やってみせてよ」とか、「できないのに偉そうなこと言うな」とかね。
そのように考えてくると、われわれが大切にしなければならないのは、社会的な連帯とか他人を信頼するという文化だということがわかります。そういう土壌がなければ、「維新の言っていることはおかしい」という認識を共有できないし、互いに信頼しあわなければ市民運動なんてできません。

夢洲の地盤沈下

―夢洲の地盤沈下が大きな問題になっています
夢洲の地盤は調べていないので分からないのです。「分からないから何もないことにしよう」という。「地盤沈下で関空はつぶれてんのか? ちゃんとやってるやん」という調子なんですね。ましてや、土壌汚染は調べようにも、法的根拠がありません。
京都大学土木会(京土会)の会長をしていた赤井浩一さんが、『「関西空港」建設の事後評価 :それは世紀の失敗作なのか』という本で、大阪湾は洪積層が沈下する「世界でも稀な地層」だと書いています。だから「分かるまで手をつけるな」というのが赤井さんの遺言だったのですが。
 
―それに手をつけてしまった
科学や事実、知性への信頼を松井(一郎)さんや橋下(徹)さんは持っていない。だから、「なんで、でけへんねん」「んなもん分かるかい」といってしまう。
こちらが「知性」を問題にすると、「偉そうに物を言う」と言って、「公の立場にあるものはどうあるべきか」という議論をさせてくれません。第2次安倍政権で安倍さん自身が、公私の境をなくしてしまったために、橋下・松井を止める理屈がなくなっています。
「カジノはダメなんや」という話をすると、「ほんならなんでパチンコはええんや」と返ってきます。「それは話のすり替えですよ」という理屈が彼らには通用しません。自分たちがやりたいように都合の良い理屈をそろえるのが彼らのやり方です。(つづく)