Aさんは統合失調症でした。両親が亡くなり2階建ての一軒家にお住まいでしたが、家の中は物にあふれ、結婚し隣町に暮らす妹さんから、会うたびごとに「片付けるよう」に言われるものの、できなくて凹む日々でした。前任のヘルパーもあきらめ顔でしたが、私が「A4カゴで仕分け」(前号記事)の方法をやってみると少しずつ物が減り、床が見えるようになりました。するとAさんに変化があらわれ、自分で小型ハンドクリーナーと、ウエットティッシュで物が片付いた床などを拭き掃除するようになりました。2年くらいたつ頃には、家の中がかなり片付きました。
妹さんから、「家がこんなにきれいに。びっくり。ヘルパーさんには感謝」と電話がありました。「ありがとうございます。ただ、家を片付けたのは半分以上、お兄さんの力ですよ」と伝えると、妹さんは、またびっくり。

片付けで表情が変わる

Bさんも統合失調症。両親が残した借金の暴力的な取り立てに苦しんでいました。公的サービスの支援担当者が「病状改善のためには、一度、引っ越しをして取り立てを回避し、自己破産手続きするしかない」と判断しました。わかりやすく言うと人道的判断による「夜逃げ」ということです。このとき最大のネックが、あふれかえっていた物の山でした。ここも最初は同様の方法で始めたのですが、最終的にはBさんがどんどん自分で不用品を捨てられるようにまで回復しました。引っ越しも無事成功。悪質借金取りを振り切ったBさんは、新生活をスタートすることができました。
するとBさんの生活に変化が。本気で「お金を貯めよう」と思うようになり、コンビニ弁当やマクドナルドばかり食べていた生活を改め、自炊中心の生活になりました。休みがちだった作業所も「皆勤賞」だけでなく、回数を増やし収入も少しは増えたようです。支援担当者は「以前はほとんど表情に感情が出なかったのに、今は作業所のイベント集合写真で笑っていて、昔とは別人のようですね」とびっくりしていました。
薬物治療だけでは、ここまでの結果は出なかったと思います。その人の「捨てられていた可能性」を形にする、これもヘルパーの重要な仕事です。「あきらめてはいけない。あなたはまだ終わってない」という、職業的信念です。(小柳太郎/介護ヘルパー)