コロナも5類に移行したので久しぶりに関東A県を訪ねた。東日本大震災で関西に自主避難して12年ぶりだ。友人たちはみんな昔と同じように私を歓待してくれた。二晩にわたって飯を食い、酒を飲み、歌をうたい、旧交を温めた。
しかし、大阪に帰ってからその会話を思い起こしてがく然とした。
会社の先輩と食事しながらおしゃべり。もともと農業県だからここは食べ物がうまいんですよ、近所のE食堂、安くておいしかったですよね。「あの店な、おかみさんが40代でぽっくり死んじゃって、店もたたんだよ」。それは残念ですね。そういえば元上司のFさんはどうしてますか?「ああ、胃がんで亡くなったなぁ」。まだ60代だったのに。いつも通っていたレストランのマスターも私を大歓迎してくれた。あの頃の常連さんどうしてます?「Fさんは脳溢血で寝たきりに。Gさんはもともと体が弱かったけど、今は口から物が食べられなくて入院してます。なんか病気の人が多いんですよね」。そうか、会いたかったんだけどなぁ。
どれもこれも楽しい会話のほんの一部。ああ、そうだったんだ、残念だね、心配だね、といって次の話題に移り、なにごともなかったかのようにおしゃべりは続く。お金ためてまた遊びに来るね、と手を振ってお別れ。
A県にいる時は何も感じなかったのに、大阪に帰ってはたと気づく。高校の同窓生で亡くなった人をまだ一人も知らないのに、A県で40代50代の知人がこれほどの確率で倒れるのは明らかに異常だ。統計的にありえない。何らかの原因を措定しない限り … 。
友人にこの話をすると「やっぱり自主避難した選択は正しかったんだよ」。そう、正しかった。そう思えば思うほど、どんよりと頭が重たくなっていく。福島第一原発3号機が爆発する映像をテレビで見たあの朝から、SF映画のような悪夢の中をさまよっている気がする。