
岸田内閣は介護保険サービスの公定価格となる介護報酬について、来年度から1・59%引き上げる方針を固めた(12月16日)。これでは、進行している「介護体制の崩壊」の流れは止まらない。そもそも自公連立与党には止める気がないのだ。
介護を受けられない
ここでいう「介護体制の崩壊」とは、「介護保険で多額の保険料(=税金)を取られているのに、要介護認定がおりても介護を受けられない」という状況を指している。深刻な原因の一つは介護ヘルパーの絶対数が足りていないことだ。厚生労働省の雇用動向調査によると、2022年には介護職を離れる人が働き始める人を上回る「離職超過」にはじめて陥った。
厚生労働省は、高齢者介護における「2025年問題(注)」として、①介護人材の需要見込み253万人(25年度)、②現状推移シナリオによる介護人材の供給見込み215・2万人(25年度)、③需給ギャップ37・7万人という数値を公表してきた。これがより悪化しているのだ。
念のために強調すると、これは「足りない分をヘルパー個々人が頑張ればなんとかなる」というレベルの数字ではない。ニュース報道などによると、人手不足の高齢者施設の夜勤でスタッフ1人が10人~20人の利用者を担当するような環境のもと、スタッフが限界に達し「利用者虐待」に手を染めるケースが続発している。
理不尽な低賃金
ヘルパーのなり手がいない、せっかくなっても長く続かない最大の原因は、介護ヘルパーの専門性と負担に見合わない低賃金だ。それは、個々の事業所の経営者の問題ではない。政府が決めた介護報酬そのものが、実情に見合わない低さであることが問題なのだ。調査によって異なるが、介護ヘルパーの平均賃金は、全労働者の平均賃金にくらべ月7万円低いとされる。仮に今の賃金から1・59%上がったとしても、介護ヘルパー不足に歯止めがかかるはずもない。(淀川一博)
【2025年問題】団塊世代(1947~1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者となることで起こる、社会保険費の負担増や働き手不足などの問題をいう。女性や高齢者の労働参加が進んでも働き手は減少するとみられている。
