原告団を先頭に横断幕を広げて大阪高裁へ=2023年9月22日、大阪市北区

「大阪高裁判決―その意義とこれから」
2018年12月4日の提訴(京都地裁)以来、5年にわたって争われた琉球人遺骨返還訴訟。その闘いを総括する集会が開かれた(昨年12月8日、大阪市内)。
大阪高裁は一審(京都地裁)に続き、原告らの請求を棄却した(9月22日)。戦前、京都帝国大学(現京都大学)の研究者らが盗掘した琉球人の遺骨が、現在京都大学総合博物館に「保管」されている。子孫らが遺骨返還を求めたが、大阪高裁は「遺骨の所有権が原告らにあると認められない」とした。一方、判決に、先住民族である琉球民族の遺骨には「ふるさとで静かに眠る権利がある」と付言した。原告・弁護団は判決文を慎重に精査し、「積極的に上告しない」と判断した。
集会では、原告団長の松島泰勝さんと弁護団長の丹羽雅雄さんが裁判の意義や今後の課題について講演した。

沖縄の自己決定権

琉球遺骨返還請求訴訟を支える会・大阪から、「川崎市でヘイトスピーチ処罰条例ができたが、奈良でも市民運動として条例設定運動が進められている」と報告。
松島さんは、「琉球・沖縄におけるヘイトスピーチ、ヘイトクライムが深刻になっている」として、沖縄県庁前でネオ・ナチグループが日本政府に対して「琉球民族を先住民族であるとする国連勧告」の撤回運動をしており、県内の自治体に意見書を求め、全国に広げようとしていることや、ネット上に「ゴキブリ、叩き出せ」と流していることをあげた。
――11月23日、1万人が「再び戦場にさせない」と声を上げた。この日の講演や発言を聞いて、沖縄の自己決定権を支持し、沖縄と繋がり本土でのとりくみ強化の必要を痛感した。   (高崎)

学知の植民地主義
原告団長 松島泰勝さん

京都大学や日本人類学会の根本には(日本人と琉球人はその起源において民族的に同一であるとする)「日琉同祖論」がある。1879年に琉球国は日本に併合され、日本の植民地になった。それと同時に琉球民族は先住民族となった。日本人類学会は、戦前に起こした人類館事件を未だに謝罪していない。学知の植民地主義は現在も続いているのだ。
京都大学は3000体の遺骨を各国から集めている。この裁判は人類学会や京都大学にはびこる学知の帝国主義とのたたかいだった。盗掘は、琉球民族の信仰、慣習、生活を冒涜するものだ。日本にとって「日琉同祖論」は都合がいい。琉球が日本の領土であれば、そこに「基地をつくろうが、何をしようが自由」だからだ。

基地問題と表裏一体

日本政府が琉球民族を先住民族として認めれば、「先住民の権利にかんする国連宣言第30条」(軍事活動の禁止)違反となり、「基地の押し付け」という国策が実施できなくなる(注)。琉球民族・先住民族・遺骨問題は、日本の国内問題としてだけでなく、世界の先住民族5億人の問題として注目されている。
琉球は遺骨盗掘、基地の他にも歴史教科書、同化教育など、日本政府による植民地支配から派生する多くの問題群に直面している。大島判決(大阪高裁)で示された歴史的な事実認定や文言等は、これらの解決に道を開く上にも大きな効果があると確信する。原告団は大島判決を確定させるため、最高裁に上告しないと決断した。
私たちは、遺骨返還運動、琉球先住民族へのヘイトスピーチなどとたたかい続ける。これからも理解とご支援をお願いしたい。
(注)【先住民の権利にかんする国連宣言第30条】1、 関連する公共の利益によって正当化されるか、もしくは当該の先住民族による自由な合意または要請のある場合を除いて、先住民族の土地または領域で軍事活動は行われない。 2、国家は、彼/女らの土地や領域を軍事活動で使用する前に、適切な手続き、特に彼/女らの代表機関を通じて、当該民族と効果的な協議を行う。(仮訳:日本弁護士連合会)

文化的ジェノサイド
弁護団長 丹羽雅雄さん

日本は1868年の明治維新で後発帝国主義として出発した。欧州帝国主義に追随する植民地主義のもと村落共同体を破壊する文化的ジェノサイドを各地で繰り広げた。そうやってアイヌ、琉球、朝鮮等を支配してきた。私たちは、これらにしっかりと向き合うことが必要だと思う。日本は、ヤマトの憲法で国際人権法違反をスルーしている。これにたいして国籍条項裁判などを通して、日本社会の差別・抑圧の構造に風穴を開けようと闘ってきた。
大阪高裁の大島眞一裁判長が判決の付言で、琉球民族として認定したことは非常に大きい。最高裁で付言の画期的な内容を取り消させるようなことがあってはならないと考えた。これについては原告、弁護団で話し合い、苦渋の選択として上告をしないことにした。
日本政府はこれまで、「アイヌ民族以外に先住民族はいない」と言ってきた。こうした政府の姿勢を反映するかのように先住民族への凄まじいヘイトスピーチやヘイトクライムが日本社会で横行している。
実際に原告団も大変な状況におかれている。特に意識するのは国連の先住民の権利宣言30条の「軍事基地にしてはならない」という条項だ。「台湾有事」が叫ばれるなか、様々な緊張関係が生み出されているということも理解してほしい。遺骨返還運動、沖縄県、今帰仁(なきじん)教育委員会等と話し合い、京都大学への要請行動なども強めていく必要がある。