穀物メジャー・カーギル社(本社、米ミネソタ州)の工場

農協買収が日米間の争点に浮上

Q 日米合同委員会でアメリカが農協をやり玉にあげ、協同組合ではなく株式会社にするよう求めていると聞きます。
―その通り。2015年の農協改革関連法案で法律上は農協を株式会社に転換できることにされました。実は農協の株式会社化の議論はかなり前からあったけど、ずっと見送られてきたんです。もちろん一人一票制である組合員の総意がないと無理なので、今も実際には進んでいませんが。
Q なぜ協同組合ではなく株式会社なのでしょう?
―農協は農民が出資者になっている組織だから、株式会社のように株を買い占めて買収できるわけではありません。競争原理を導入しろとか農業経営を効率化しろとかもっともらしい理由があげられるけど、要は農協を株式会社にして外資に買収させろ、市場を明け渡せということ。
Q 「アメリカの農産物をもっと買え」と?
―それもあるけど最大の狙いは農協の持つ資産でしょうね。農協(JA)は農林中金や全農、共済連といった連合会をつくっていて、資産規模は巨大。例えばJA共済は資産58兆円、契約高270兆円で、アフラックなんかがこれを狙っています。郵政を民営化したら郵便局でアフラックの保険を売り出したでしょ。あれと同じことをやりたいんですよ。
Q それは初耳です。農協を株式会社に、という話の発端は全農グレイン買収事件だと聞いていました。
―それももちろんあります。全農グレインは米国における全農グループの穀物輸出拠点ですが、穀物メジャーのカーギルが買収を試みて失敗しました。全農グレインは親会社の全農が協同組合だし、その全農の出資者は全国にある農協だから、農協がうんと言わない限り買収できないんです。
Q 全農グレインがGM(遺伝子組換)穀物を選別しているのが目障りだったから、と言われていますが。
―その通りですね。日本が輸入する飼料用とうもろこしはその多くが遺伝子組み換えなんだけど、全農グレインはアメリカ国内でも「IPハンドリング」といって生産や流通の過程で遺伝子組換とそうでないものは厳密に分別管理しているんです。カーギルはそれが目障りで仕方がないんでしょうね。
Q アフラックやカーギル、さまざまな米系資本が日本の農業関連市場に食い込むうえで、農協が協同組合という形式をとっていることがことごとく障害になっていると。
―そういう理解で間違いないと思います。

種子の生産を民営化?

Q 農業のグローバル化という流れでは、種子法が18年に廃止、種苗法が19年に改悪されました。主要農作物(コメ・麦・大豆)の種子はその安定供給と普及を国家が管理してきたけれど、種子法を廃止してこれを民間にやらせるという趣旨です。種苗法改定では種子が知的財産とされ、農家の自家採種が原則禁じられました。バイエルやカーギルといったアグリビジネスが種子を独占支配するのではないか、種子という社会的な共有財産が外資に私物化されないか、という危惧が広がっています。
―そういう狙いが背景にあることは事実。法案が大きな穴をあけたとは言えますが、現場からの発信でその危機が訴えられ、踏みとどまって穴をふさいでいる。今のところ状況は変わっていません。
Q そこの実情をもう少し詳しくお聞かせください。
―モンサントなんかが得意とする穀物の種子はほぼ100%国産で外資は入っていません。今でもコメ・麦の種子は専用の EQ * jc3 * “Font:Liberation Serif;Times New Roman” * hps21 \o\al(\s\up 11(ほじょう),圃場)で日本の農家がつくってます。
 種子の生産は各自治体の農業技術センターや種苗センター、種子生産農家が担ってきました。種子法の廃止でここに予算措置する根拠法案がなくなって、それで民間会社にやらせろって話なんだけど、種子の安定供給を求める農家の声を受けて各自治体が条例で予算化し、これまで通りの体制で種子の供給が行われているのです。種子法と同じ内容の条例をもつ道県が34(23年4月)、条例に準じた行政内規のある自治体も含めると9割の自治体が穀物種子の供給管理というこれまで国が果たしてきた役割を肩代わりしています。現場の農家や地方自治体が踏みとどまっているいい事例だと思います。

「自家採種禁止」は骨抜きに

Q 野菜や果物の種はどうなんでしょう。種子の知的財産権をたてにして自家採種する農家をモンサントが訴えた、という海外の話を聞くと不安になります。
―種苗法で自家採種が原則禁止といっても、運用上、届出すればほとんどの種子が自家採種できます。特許が認められた「登録品種」は流通する種苗の1割、残りの9割は種苗法の影響を受けない「一般品種」なので、今のところ実質的な変化はないといえるでしょう。
Q 種子の大半は海外から輸入されていると聞きますが。
―輸入といっても日本種苗大手の「サカタのタネ」や「タキイ種苗」が海外でつくる種子。バイエルやシンジェンタが日本市場を独占しているわけじゃありません。種子生産を国内に限定することは、台風一過で全滅するリスクが高いので物理的にムリなんです。品質や規格が一定で病虫害に強い種子を安定供給するには農場を分散させる必要があります。そもそも野菜の原産は海外であることも多いため、その地域の気候で生産することにより品質を高めるという理由もあるのです。
 一方で、江戸野菜や京野菜などに代表される日本古来の野菜の種子、品種改良のもとになった系統の種子は、今でも個々の農家がしっかり保存していたり、都道府県の農業試験場や国の農研(農業・食品産業技術総合研究機構)が、遺伝的特性を失わないよう厳格に隔離した原原種農場で増殖、保存しているんですよ。
―思っていたより現場の力が強いですね。希望を感じます。
Q 農業切り捨ての圧力に危機感を持つことは大切。一方で農協、生協、消費者団体、自治体ががんばって新自由主義をおしかえしている点は評価していいと思うんです。農水省にも農業を守るためにがんばってる職員はたくさんいますよ。(つづく)