ダニー・ネフセタイ 著/集英社新書 2023年刊 1000円+税

元イスラエル兵のダニー・ネフセタイさん(1957年イスラエル生まれ、埼玉県在住)の講演が大阪市内であった(1月11日)。
イスラエルでは誰もが自由な教育を受けたと思っている。しかし気がつくと高校を卒業するころには、みんな徴兵に応じるのは当然だと考えるようになる。かつての日本のように教育勅語の丸暗記のような愛国心の押し付けはない。しかし小学校から高校まで各学校に卒業生の戦死者の顕彰碑がある。国のために命を捧げたと学校をあげて讃えられる。
ダニーさんもパイロットになりたくて入隊し訓練を受けた。結果的にはなれなかったが、もしなっていたら、迷わず命令通り爆弾をパレスチナに落としただろうという。イスラエルでは、自国の軍隊の死者数は数えても、パレスチナ側の死者数は数えない。
学校では、パレスチナ人の土地にユダヤ人が入植して、パレスチナ人の土地を奪ったことは教えない。徴兵で初めてヨルダン川西岸地区に派兵されたイスラエル軍の兵士は「なんでイスラエルの土地にアラブ人が住んでいるんだ」となる。「パレスチナ人が私たちの土地を奪った。パレスチナ人をやっつけよう」という全く逆転した考えを持つようになる。
ダニーさんは1988年から日本に住んでいるが、イスラエルに疑問を持たなかった。しかし、2008年のガザ攻撃、11年の福島原発事故で、少人数の人の利益のために大勢が犠牲になるということに気づいた。その瞬間、戦争も差別も難民問題も沖縄基地問題も、共通点は人権が奪われるということだと分かった。関心を持たなければ、穏やかな日常を送れるが、自分に関係ないからとのんびりしていたら、また戦争が始まるかもしれない。そう考えて平和のための講演活動をしている。 (堀ちえこ)