―農協改革が議論され、農協にはいろいろ問題があると言われているようですが。
A 農協改革議論の発端は多々ありますが、わかりやすいものとして米国の「在日米国商工会議所意見書」があります。要は、米国が農協の解体を要求しているということ。真摯に耳を傾けるべき農協批判もありますが、米国に調子を合わせた、ためにする議論が多い気がしてなりません。

―農協に問題はないのですか。
A もちろん課題はたくさんあります。信用・共済に傾注しすぎているとか、事業目標が過重だとか、割高な資材が多いだとか。しかしこれらはいずれも「農民が自主的につくる協同組合としてあるべき姿になっていない」という問題であり、「農協に問題がある、だから農協をつぶせ」というのは議論が飛躍しています。農協を敵視する米国の要求に話を合わせているにすぎません。

―米国は何を要求しているのですか?
A 准組合員の制限が最大の要求といえるでしょう。
農協には、農業者である正組合員と、農業者以外の准組合員がいます。准組合員は農協の事業や施設を利用することができますが、総会での議決権や選挙権はなく、農協の運営には関与できません。現在、農協の構成員は准組合員の方が多いのですが、米国は准組合員の排除を露骨に求めています。

―なぜ農業者以外の人が農協のメンバーになっているのですか?
A 農協は農村部を組織基盤としています。農協ができた戦後しばらくは、地域の大多数が農家であり正組合員でした。それが都市化の進展により、工業用地や宅地として農地を手放した元農民が増え、こういう人が准組合員になっているのです。もともと農協のルーツは戦前の産業組合であり、その組合員資格は特に規定されていなかったという制度的な側面もあります。
現在の農村部では、金融窓口や日用品の販売、ガソリンスタンドから介護・医療にいたるまで、農協しかサービスを提供していない地域もたくさんあり、その場合は地域住民の多くが准組合員となって農協を利用しているという現実もあります。

―農業者以外の人が農協の多数を占めるのはイレギュラーな感じがしませんか?
A それは結果論です。農業の地位が相対的に低下する中において、本来なら行政がやるべき地域インフラの役割を農協が担ってきたと考えるなら、そのことをもっと積極的に評価すべきだと思いますし、そのことは政府・農水省の「総合的な監督指針」にも記載されているのです。

―それならどうして執拗に農協が攻撃されるのですか?
A その理由は先の在日米国商工会議所の要求を見るとわかります。
アフラックなどの保険会社が日本市場に参入するうえで、JA共済や県民共済などの共済事業が邪魔なんです。農協は農業だけやっていろ、銀行(信用事業)や保険(共済事業)に首を突っ込むな、というわけです。日本農業の未来を考えて出てきた話ではありません。

―農協から信用・共済事業を切り離すとどうなるのでしょう?
A 日本の農業と農村は大きな打撃を受けるでしょう。
 もともと農協の農業関連事業は赤字で、収益力の高い信用・共済部門の黒字がこれを補ってきました。しかし言い換えると、信用・共済から得た利益を積極的に農業部門に投入することで農業・農村が守られてきた、ということなんです。仮に農協から信用・共済をとりあげれば、農業生産が盛んで農業部門で黒字を維持している農協は何とか生き残るでしょうが、生産効率が悪い中山間地域の多くの農協は一気に赤字に陥るでしょう。そうなると結果的に多くの農家が廃業せざるを得なくなることも想定されます。

―農協は農村を守るという役割を果たしてきたと?
A その通りです。
田舎に行けば「農協以外に店がない」ことも多いのです。農協から黒字部門をとりあげたら、地域のために赤字でも営業してきた店舗やガソリンスタンドは撤退せざるを得ず、そうした拠点がなくなれば農村コミュニティは崩壊の一途です。国鉄を分割・民営化した結果、赤字ローカル線が軒並み廃止されているような現実が形を変えて繰り返されるでしょう。

―現在の農協の状況はどうですか?
A 政治的には力関係の均衡が続いています。
 新自由主義を体現する規制改革会議などから農協攻撃が強まり、一時は「准組合員の事業利用規制を行う」というところまで追い詰められました。しかし、新自由主義に対抗する政治的流れもあって、現在の政府のスタンスは「農協の自己改革を当面見守る」ということになっています。しかし政治バランスが崩れて、新自由主義者たちが台頭することになれば、またぞろ米国の要求を持ち出したりして再び農協攻撃が強まることになるでしょう。

―農協はどうすべきなのですか?
A 農協は自己改革で、「農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化」という3つの基本目標を掲げて様々な取り組みを行っています。
准組合員が多いという現実は、農協が農業はもちろんのこと、地域全体の協同組合として発展していく可能性としてとらえるべきだと思います。そのためにも地域に根を張った協同組合として、自己改革を貫徹できるかに今後の命運がかかっているといえるでしょう。

【資料】
『総合的な監督指針』(2015年改正版)
准組合員制度は「農協が農業者のみならず地域住民の生活に必要な生活支援機関としての役割を果たすことが農村の活性化にとって望ましいこと、また、農協としては、事業運営の安定化を図り、正組合員へのサービスを確保・向上する上でも、事業分量を増大することが望ましいことから、地域に居住する住民等についても農協の事業を組合員として利用する道を開くためにもうけられている」

『在日米国商工会議所意見書』(2022年6月まで有効)
「日本政府は国際通商上の日本の責務に従い、共済等を外資系保険会社と同等の規制下に置くべきである。外資系を含む保険会社と共済等が日本の法制下で平等な扱いを受けるようになるまで、共済等による新商品の発売や既存商品の改定、准組合員や非構成員を含めた不特定対数への販売、その他一切の保健事業に関する業務拡大および新市場への参入を禁止すべきである」
「制度共済は構成員のハニがあまりにも広いものが多く(消費者、労働者、県民等)、僅かな出資金を支払って構成員になれば、実質的に誰でもこうした制度共済から保険商品を契約することができることから、制度共済は商品を実質的に不特定多数に販売していると言える。例えば東京都では、出資金200円を一度払えば都民共済の組合員になることができ、またJA共済連の商品を取り扱う各地のJAへは、出資金を払えば農業者でなくても准組合員になることができる。なお、約1049万人のJA共済組合員のうち、半数を超える約624万人を准組合員が占めている。さらにJA共済連については、農業協同組合法によって、組合員の利用高の2割までは、上述の出資金さえ払う必要のない非構成員による利用が認められている。…JA共済連がこのような特別待遇を享受し続ける理由はない」